2022.08.04 08:36
「札幌の鳴子は鳴らない」と侮るなかれ ある市内チームに高知のプライドが揺らぎそう ヨサコイ不思議発見!②
「SAPPOROこいこい」は、鳴子にYOSAKOIソーラン再興の思いを込めたチーム
高知新聞のよさこい担当記者2人が、第31回YOSAKOIソーラン祭り(6月8~12日・札幌市)を取材し、関係者の思いを聞いてきました! 全7回の連載でお届けします。(①を読む)
鳴子以外にも様々な道具を使って踊るYOSAKOIソーラン(浜田悠伽撮影)
ところが、鳴子の魅力を生かし、シャンシャンとそろった音を響かせているチームを見つけました。始動5年目の「SAPPOROこいこい」です。とってもうれしくなったので、リポートします。
よさこい祭り…1954年、高知市で始まった祭り。鳴子を手に市民が踊り歩く。ルールは「鳴子を両手に持ち、鳴らしながら前進すること」など。
YOSAKOIソーラン祭り…高知のよさこいが札幌に伝わり、1992年から開かれているイベント。規模は高知の2倍以上。ルールは「手に鳴子を持って踊ること」など。
■鳴子とは? よさこいに欠かせない道具
高知のよさこいでは、鳴子の音がとても重要(2015年撮影)
高知のよさこいにおいて鳴子さばきは重要です。上手に手首を返して鳴らせば、踊りに独特の華やぎと味わいが生まれます。チーム全体で「シャンシャン」とそろって聞こえるか否かは、評価ポイントの一つです。
YOSAKOIソーラン祭りの演舞は迫力満点ですが、担当記者からすると、鳴子が鳴らされないことに物足りなさも感じていました。4分半の演舞中、鳴子を手に持つ時間が10秒弱のチームも珍しくありません。
取材を始めた当初は「鳴子を鳴らすのは難しいしなあ」と正直、諦めていました。
■あれ、鳴子の音がする!「SAPPOROこいこい」が現れた
大通公園に「シャン!」と切れのある鳴子を響かせる「SAPPOROこいこい」
ステージで踊っていたのは、白と抹茶色の衣装に身を包んだ「SAPPOROこいこい」。出場2回目の若いチームです。
演舞冒頭、和楽器の刻みとともに「シャン!」「シャンシャン!」。そろった切れのある音が響きます。
「笑顔と鳴子のおもてなし」「鳴子両手によさこい、こいこい!」
「鳴子でつながる物語~、あなたと鳴子の物語~♪」
歌詞にも「鳴子」がたくさん出てきます。持ち方もきれいだし、明らかにちゃんと練習している鳴らし方。このチーム、他とはちょっと違う…。気になったので、話を聞かせてもらいました。
■YOSAKOIソーラン再興の思いを鳴子に込めて
鳴子を差し出す山下潤代表
――他のチームと雰囲気が違いますね。鳴子も鳴っています。何かこだわりが?
山下「分かりますか! 鳴子は練習してるし、演舞の雰囲気はあえて他チームと差をつけてます。見た人に『これなら私でも踊れそう』と思ってもらいたいんです」
――意外な答えです。札幌では、華やかで難易度が高い演舞が主流なのでは?
山下「そこです。いかにも難しそうで、練習についていけないのでは?という気持ちになるでしょ。実際に練習の負担は大きいので、学生時代にYOSAKOIを踊っていても社会人になるとやめてしまう人が多いんです」
「祭り自体、最盛期より踊る人も見る人も減ってる。だからチーム名や歌詞の『こいこい』には、祭りにみんなが戻ってきてほしいという意味がこもっています」
――「こいこい」にそんな思いが込められているとは。鳴子にも意図がありますか?
山下「思い出を呼び起こすなら鳴子でしょ、と。今年は演舞テーマを『鳴子音』としました。特に2022年は3年ぶりなので、『祭りやってるな』『懐かしいな』と思ってもらえる音色を届けたいと思いました」
■鳴子の優位性で見栄えと差別化を
JR札幌駅南口広場会場での演舞
山下「立ち上げメンバーは大学生チームのOB。中心になった1人が高知市出身だったので、高知のよさこいの考え方にかなり影響を受けています。実際に行ったことはありませんがYoutubeで演舞をたくさん見ました」
――高知を参考にして、鳴子も大事にしてくださっていると
山下「リスペクトしています。それに、チーム運営の戦略にも有効です」
――どんな戦略ですか
山下「自分たちはYOSAKOIに明け暮れるのではなく、仕事と家族を大事にして余った時間で踊りたい。おしゃれで憧れてもらえるような演舞にもしたい。高知のチームを見ると、踊りの難易度をむやみに上げなくても、鳴子をそろえて魅力的に見せられることが分かります。札幌では珍しいから他チームとの差別化にもなります」
――なるほど
山下「踊り子集めはどこも大変です。それもあって、各チームが良い賞を目指して頑張るんですけど、うちの場合は平日の練習がないことが売りになる。演舞の最後には、一緒に踊りましょうという気持ちを込めて、お客さんに鳴子を差し出す決めポーズがあります」
鳴子の持ち手を観客に差し出すポーズは「一緒に踊りましょう」というメッセージ
◇
「こいこい」のよさこい観は、高知寄り。祭りの衰退を真摯(しんし)に受け止め、これを逆手に取って魅力を底上げしようとするチームづくりに舌を巻きました。こうした人々が、鳴子の持つ可能性に気付いてくださった…。そんなうれしさと同時に、「よさこいは高知」のプライドが、今よりさらに揺らぐ未来が頭をよぎりました。北海道のYOSAKOI、すてきです!
(企画・構成=竹内悠理菜)
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