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2024.05.26 05:00

小社会 恩を売る

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 作家で精神科医の故なだいなださんは50代の頃、腰を痛めた。ところが、娘たちがちっとも心配してくれない。これを機に親の恩、ひいては「恩」という言葉を随筆で考察している。

 「恩を売る」という表現に違和感があるという。「やつに恩を売っておくか」とつぶやく人を想像すると、何か計算高い人間に思えてくる。どうも尊敬する気分にはなれない。加えて「恩を買う」という表現がない。恩には売り手はあるが、買い手はない。

 人が「恩に着る」には、相手の人徳や行いもあるのかも。なださんは「そのような微妙な言葉の意味を理解せず、やたらと声高な売り声をあげて恩を売り歩き、買い手がつかぬと『恩知らず』がふえた、と不満をもらすものがいる」。

 こちらも声高に恩を売り歩く類いだろうか。来月始まる1人4万円の定額減税。政府が給与明細への減税額の記載を義務付けた。企業や自治体は仕事が増え、世間からは「恩着せがましい」と冷ややかな声も聞こえる。

 首相は「減税の恩恵を実感いただく」と言う。だが、国民はそんな気分かどうか。物価高に賃上げが追いつかず、実質賃金は24カ月連続のマイナス。苦しむ国民を横目に政治家が甘い汁を吸っていた裏金事件では、法改正論議でも抜け道がふさがるようには見えない。

 今の政治は徳や行いに問題があるに違いない。恩の買い手がつかなくても、恩知らずと不満はもらさないように。

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