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2024.05.18 08:10

〈貿易の視点から見えてきた、地方経済再建の秘策〉「自損型輸入」で地域衰退 貿易コンサルタント・小島尚貴氏―高知政経懇話会

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 この10年、眼鏡やヒジキ、タケノコの水煮といった商品を扱う事業者が売り先に困り、輸出の相談が増えてきた。日本人が手がけたメード・イン・チャイナの商品が市場にあふれ、販路を失っているからだ。これらの商品は奇妙な輸入の構造を持つ。

 例えば、漬物ならば地元産原料を地元工場で加工し、原料費と加工費を合わせた500円に利益100円を上乗せして600円で販売する。

 これに対し、「奇妙な構造」の輸入品は、製造コストが低い国に日本企業が技術・設備・ノウハウを提供し、原価を含めて100円で製造して輸入する。そこに200円の利益を上乗せして300円で販売する。この手法だと取引の規模は縮小しているのに、業者の利益は倍増する。

 貿易は通常、日本になく、海外にある品目を輸入する。一方で、「奇妙な輸入」は元々日本にあって海外にない品目を輸入している。安価なため、業界に値下げ圧力をかけ、国内産業と地域の衰退を招いている。

 こういった輸入を指す言葉がなく、自らの業界や自国に損失を与えることから「自損型輸入」と定義づけした。

 自損型輸入が津波のように海外から流れ込み、国内業者の売り上げ、収益が減っている。それは税収の減少となり、住民サービスの低下につながる。そういった現象が各地で起こっている。

 自損型輸入の総額はいくらか。内閣府などの資料を基にはじくと、安さだけを理由に東南アジアなどから輸入されている製品の総額は、2022年で32兆4500億円に上る。1990年当時は5兆8千億円で、32年間で5・6倍に拡大した。

 自損型輸入商品を扱う日本企業の1店舗当たりの平均売上高を基に計算すると、高知県内での逸失経済効果は年間691億円。これは県の税収入に相当する。2022年の国内の輸入総額は87兆8500億円で、その37%が安さを理由とした輸入品だ。

 特に、イグサは自損型輸入で大きな打撃を被った。熊本県八代市では1990年からの13年間で作付面積が約7割減った。同市のイグサ・畳産業の売上高は約700億円あったが、2023年度には34億円にまで減った。イグサ農家の収入は月10万円を切ると言われている。

 他にも、革靴の国内出荷額は1990年に5千億円だったが、ベトナムなどから輸入が増えたことで2019年に923億円に縮小した。このように、自損型輸入商品によってさまざまな産業が衰退している。和製メード・イン・チャイナは、高品質で安価なため、圧倒的な強者だ。所得ランキングの上位は、こういった商品を扱う会社の社長だ。

 「安くて品質もいいのに、何が悪いの」「コスパに敏感な私は賢い消費者だ」と言う人もいる。それはコスパ病だ。ふるさとや自国を貧しくするような中国製品を、喜んで買い支える自虐的な消費行動だ。

 福岡県嘉麻市では、主婦中心の消費者チームが立ち上がった。まず身近な品目について、お金がどう落ちるかを学び、買い物センスを磨いている。食品では主原料の産地や販売者、製造などを見て、できるだけ日本の物を買っている。

 消費者が地元業者を買い支えることで経済効果を生み出し、それを広げていくべきだ。消費者主導の地産地消の時代を迎えている。

 こじま・なおたか 1975年生まれ、西南学院大学中退。マレーシアの貿易会社に入社し、帰国後は経済誌を経て、2001年に独立。香港の投資ファンド役員などを歴任し、11年から輸出・国際技術移転事業を手がける。48歳。

 高知政経懇話会(事務局=高知新聞企業)は毎月1回、第一線で活躍する講師を招いて講演会を開いている。次回は6月4日、サイバーセキュリティーに詳しい日本プルーフポイント(東京)のチーフエバンジェリスト、増田幸美氏。問い合わせは事務局(088・825・4328)まで。

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