2024年 04月28日(日)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2023.09.19 08:39

「らんまん」万太郎、東大やめる 森を守る南方熊楠の思いを継ぐ 牧野富太郎は77歳で辞職迫られた

SHARE

©️NHK

©️NHK

 
 朝ドラ「らんまん」の万太郎(神木隆之介)が東大に辞表を出しました。万太郎は、植物標本の鑑定を依頼してきた紀州熊野に住む南方熊楠からの警告を受けて、失われていく神社の森にある貴重な植物の調査採集をしてきたのです。このことは神社の合祀を行って、その整理合併を推進する国の施策には沿わないものでした。


「らんまん」をもっと深く、もっと楽しく! 牧野富太郎博士の特設サイトはこちら!

 とりわけ万太郎は、ハイノキなどの樹木に寄生する希少な植物「ツチトリモチ」の絶滅を恐れて、その奇態な姿の詳細な植物図を描き、それを出版物として刊行することを決めました。

 東大の徳永教授(田中哲司)から「もうかばえない」と告げられた万太郎は、自ら辞表を差し出しました。東大の研究員としてではなく、個人の植物学者になることを決意したのです。

 さて、実際の牧野富太郎はどうだったのでしょう? 実は牧野が東大を辞職したのは77歳の時でした。ドラマで描かれているより、ずっと後のことになります。その辞職の経緯を連載記事から抜粋しました。ご覧ください。


『淋しいひまもない 生誕150年 牧野富太郎を歩く』(54)東大の講師を辞任

 「牧野日本植物図鑑」刊行の前年、牧野富太郎は東大に辞表を出している。それは大きなニュースとして報じられた。

 1939(昭和14)年7月25日付の新聞「東京朝日」は、以下のような見出しで記事を掲載した。

 〈四十七年勤めて月給七十五円/東大追われた牧野博士/深刻な学内事情の真相をあばく〉

 大学内部の事情に詳しい人物に記者が質問をするというスタイルで、記事はつづられる。その事情通によれば、こんなふうな経緯であった。

 その年の5月、東大植物学教室の助手が牧野の自宅にやってきた。そして、こう言った。「先生は適当な機会に辞表を出したいと言っておられたが、大学でも待ってるから、早い方がいい。今日、辞表を出していただけないか」

 その非礼に牧野は怒った。隣の部屋で聞いていた娘も飛び出してきた。「何という失礼なことをあなたは老人になさるんです! お帰りなさい、お帰りなさい!」

 この時、牧野は77歳になっていた。大学では講師という身分であって、教授のような定年はないものの、1年ごと雇用を更新していくというものだった。

 〈博士の受け持った講義は「植物分類学実験」と「植物分類学野外実習」で、前期の第三学期に十回前後くらいであった。博士の講義は深い体験と博覧強記に基づく独特のもので、ことに和漢の学に精通した趣味深い話は学生に喜ばれ、つい回を重ねるうちにもう終わってしまってがっかりした、という体験を語った人もある〉(上村登「花と恋して」)

 ことに野外実習は人気を集めて、分類学を嫌った学生まで参加した。採集指導は日帰りできる神奈川県の海岸各地や筑波山などで行われた。講義を終えた牧野は、しばしば植物学科の学生全員を連れて、自動車で一流の食堂に乗りつけた。

 〈学生たちは豪華な料理を前にして、これで先生の月給が飛んでしまうかと思うとありがた過ぎてごちそうが咽喉(のど)を通らなかった〉(同)
     □
 1939年5月25日、牧野講師は理学部長に辞表を提出した。そろそろ潮時だ、と牧野も思っていた。これは後年の述懐である。

 〈私はもう年も七十八歳にもなったので、後進に途を開くため、大学講師を辞任するの意はかねて抱いていたのであったが、辞めるについて少なからず不愉快な曲折があったことは遺憾であった。私は今改めてそれについて語ろうとは思わないが、何十年も恩を受けた師に対しては、相当の礼儀を尽くすべきが人の道だろうと思う。権力に名を借り一事務員を遣わして執達吏(しったつり)の如き態度で私に辞表提出を強要するが如きことは、許すべからざる無礼であると私は思う〉(自叙伝)

 牧野は言う。大学は辞めても、植物の研究を止めるわけでない。私の日常に変わりはない。
     □
 その時の心情を牧野は歌っている。

 〈朝な夕なに草木を友にすれば淋しいひまもない〉(自叙伝)

 この連載のタイトルは、そこからもらった。

 草木を友にすればいいのだ。そうすれば、こういうふうな気分になる。

 〈人生に寂寞(じゃくまく)を感じない。もしも世界中の人間がわれに背くとも、あえて悲観するには及ばぬ。わが周囲にある草木は永遠の恋人としてわれに優しく笑みかけるのであろう〉(牧野「植物知識」)=2013年4月20日付、社会部・竹内一


■クリック!この連載記事をまとめた新書「MAKINO-生誕160年牧野富太郎を歩く」が出版されています。
■牧野博士の「真実」浮き彫りに 最新評伝「シン・マキノ伝」刊行  練馬区牧野記念庭園の田中純子学芸員執筆

高知のニュース WEB限定 牧野富太郎

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月