2022.03.13 08:36
愛する「魚の棚」守り継ぐ 若手事業主らが奮闘中 はりまや町1丁目(高知市)―ちいきのおと(62)
江戸時代に開設された魚の棚商店街。狭い通りが往時をしのばせる(写真はいずれも高知市はりまや町1丁目)
魚の棚ができたのは江戸時代。寛文年間(1661~73年)に土佐藩3代藩主、山内忠豊に開設を許され、城下の「台所」として栄えてきた。
南北80メートル、道幅3メートル。こぢんまりした通りの形は往時のまま。戦前には50軒ほどが並んだが、昭和の中頃からスーパーができて人の流れが変わったり、店主の高齢化が進んだり。地元生え抜きの店は2軒のみで、近年はシャッターが目立つようになっていた。
そんな魚の棚に活気を取り戻そうと2021年1月、30~40代の若手事業主らが事業協同組合を設立。理事長にはコロッケ店「ひろっちゃん」を経営する細川洋伸さん(49)が就いた。ちなみに昭和から続くのが細川さんの店と、その隣の岡本海産物店だ。
若手事業主らと事業協同組合を立ち上げた細川洋伸さん
細川さんは「ここで商売したいって来てくれる人もいる。新しい価値観を受け入れていくため、つなぎ役になりたい」。居酒屋やゲストハウスなどがオープンし、今は16軒が営業中という。
魚の棚商店街でタトゥースタジオを開いた高橋浩平さん
修業後、独立するために店舗を探したが「仕事へのマイナスイメージもあって、なかなか借りられなかった」。協同組合のメンバーでもある不動産業者の仲介で入居先が決まり、昨年1月に営業を始めた。
組合にも名を連ね、「商店街の一員として社会活動に参加することで理解や信頼が得られると思う。受け入れてくれた魚の棚の人々には、感謝しかないですね」と話す。
無料紙で街の魅力を発信し続けている松田雅子さん(高知市春野町弘岡上)
新型コロナ禍で街の苦境は続くが、「街の人は希望を見つけて活動しています。その思いを伝えるのが私の使命」と意気込む。
理事長の細川さんは「商店街を組織化したことで、他の団体とも連携が取りやすくなった」。5月3、4日には隣接するはりまや橋商店街振興組合と初めて協力し、小間などを並べる「中種横丁マーケット」を開催予定という。
「古い街並みに、新しい人や商売が入って混沌(こんとん)としてきた」と喜ぶ細川さん。「温故知新。先人が守ってきた街を、しっかり次代に引き継ぎたい」と意気込んだ。時代の変化に合わせた魚の棚へ、挑戦は続く。(報道部・海路佳孝)
《自慢のイッピン》
豪快!!ウツボのお頭「海のギャング揚げ」
ぼっかりと開けた口から、どう猛な歯をのぞかせる。魚の棚商店街にある居酒屋「ハイカラ」が提供する「海のギャング揚げ」は、ウツボの頭を豪快に揚げた人気メニューだ。
意を決してかぶりつくと、想像以上に肉厚で、脂の乗りに驚く。皮目はぷりぷりとした食感でコラーゲン豊富。男女問わずリピーターが多いという。
2019年の「からあげグランプリ」(日本唐揚協会主催)で金賞、「高知家のうまいもの大賞2020」で審査員特別賞を獲得。オーナーの佐々木健二さん(43)は「ユズポン酢かオリジナルスパイスで、ぜひ味わってほしい」。
税込み880円。営業時間は月―土曜の午前11時~午後11時。系列店でも提供。
《あの日あの時》1989年
道路改修 盛大に祝う
1989年7月18日、魚の棚商店街の道路改修を祝う餅投げの様子だ。住民のアルバムから借りた1枚。砂利混じりの凸凹道から透水性アスファルト舗装に変わったことを祝し、盛大なセレモニーが開かれたという。
道路改修でお祝いとは大仰にも思えるが、そこは商魂たくましい商店街。5日間のセールを行い、トイレットペーパーの無料配布や魚のつかみ取りなどで盛り上がったとか。
セレモニーのテープカットには、当時の横山龍雄市長やミス高知も参加した。当時を知る岡本海産物店の西村和子さん(77)は「工事のために、みんな1カ月くらい店を閉めちょったきね。もう呼べるだけ人呼ぼうって。餅投げの夜は大宴会よ」と懐かしんだ。
《ちょっとチャット》
桑名真紀さん(80)衣料品店「めろでぃー」経営
ここらは昔から、鮮魚やら呉服やら、いろんな商売をする人がおる街。コロナ禍で厳しい局面が続きよりますが、「この街が好き」「商売を続けたい」という思いとか絆を再確認できた気がしますねえ。地元の商店街同士で連携して、若い人たちの力を借りて、街の魅力や希望を見いだしていきたいですね。
はりまや町1丁目は、中央公園の東側から木屋橋交差点西側までの東西に細長い地区。播磨屋橋がある。1998年、はりまや橋商店街(旧・中種商店街)に全国初の木造アーケードができた。3月1日現在、227世帯、354人。