2021.12.20 08:37
ただ今修業中 キュウリ農家 長崎朝陽さん(26)高知市
「東京で培った縁を生かし、面白いことをしたい」と話す長崎朝陽さん。隣は妻の美波さん(高知市追手筋2丁目)
「その春菊、サラダにしてそのまま食べられますよ」
高知市の商業施設「帯屋町チェントロ」裏で、毎週土曜に開かれる青空市。日焼けした長身の青年が朝採れ野菜の食べ方をアドバイスする。
東京からUターンし、8月に春野町にある実家のキュウリ農家を継いだばかり。妻の美波さん(27)と二人、オーバーオール姿の新婚夫婦が営む青空市には、図書館帰りの家族連れや飲食店関係者らがひっきりなしに訪れ、人気を集めている。
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「農作業はしんどい。小さい頃はいいイメージがなかった」
小学校に上がる時、旅行業に携わっていた両親が農業を始めた。キュウリの最盛期になると家族総出で収穫。嫌々手伝っていたが、2013年、実家のキュウリが「全国野菜ソムリエサミット」で「日本一」に輝いたのをきっかけに、両親がただ野菜を育て、市場に卸しているだけではないことに気付いた。
母は料理人の声に耳を傾け、冬に入荷の少ないバジルなどのハーブや野菜40種を育て高知や東京の料理店に出荷。店やイベントにも積極的に顔を出していた。父は家を空けがちな妻の代わりに夕食を作り、家庭をサポート。得意の野菜料理をSNS(会員制交流サイト)で発信していた。野菜作りを通して人と人とのつながりを広げる両親に触発され、将来は農業を継ごうと考えるようになった。
東京で営業マンをしていた頃、中野区の老舗果実店3代目の成瀬大輔さんと出会った。原宿表参道のビル街に、19年11月から約2年の期間限定で野菜や果物を売るマルシェ(青空市)の出店を計画し、「地方のファーマー(農家)を前面に出していきたい」と語っていた。
野菜や果物を通じて人の縁を広げる姿が両親と重なり、その店で修業することを決めた。店先には実家のキュウリも並んだが、食に対する意識が高い客から「堆肥は動物性を使ってる?」「農薬は何%カット?」と質問攻めに。「『うちのキュウリは日本一』とは言えても…。農業の現場をちゃんと見ていなかった」。質問に答えられない自分を歯がゆく思った。
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好きな言葉
チェントロ裏の青空市は11月に開店。初めて収穫する野菜の売り方を考えていた時、母と旧知の仲だったチェントロのオーナーから「お街の名物マルシェにしてみたら」と誘われたのがきっかけだった。
青空市では表参道での経験を生かし、どう育てたか、どう食べたらいいかをお客さんにきちんと伝えるよう心掛けている。野菜は木の箱や籠に入れておしゃれに演出し、新聞バッグを使ってエコも意識。「そのままサラダで食べられるものを」との声に応え、野菜とハーブ、直七を一緒にしたサラダセットの販売も始めた。
「夢? とにかく楽しくやりたい。そうすれば農業を継ぎたい人が増えるでしょ」
写真・反田浩昭
文・村瀬佐保