2007.08.27 08:00
『本城直季 おもちゃな高知』5つに分けたスイカ
ゆみこさん(46)は、5人姉妹の長女。末っ子の妹とは12歳離れている。
実家は70年以上前に祖父が始めたはんこ屋で、高知市の電車通りから少し入ったビル街に、小さな店がある。今は父が継いだその店を、ゆみこさんは妹と一緒に手伝っている。
幼いころ、両親は店で暮らしながら働いた。店は狭かったから、妹たちが生まれると、全員で住めなくなり、ゆみこさんは小学3年生ごろから、祖父母と借家で暮らすようになった。新しい家を買い、ようやく家族が一緒に暮らせるようになったのは、ゆみこさんが中学2年生になったころのことだ。
5人姉妹は、一緒にいることがうれしくて、はしゃいだ。冬、ストーブのまわりをぐるぐる回っているうち、上に載せたやかんが落ちた。2歳だった末の妹に熱湯が降りかかった。
泣きわめく妹を、父親は抱きかかえて風呂場に走った。たくさんの水を妹にかけて、体を冷やした。病院に向かう妹。後に残ったゆみこさんたちは、心配で泣いた。妹は助かったが、やけどの跡が少し残った。
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父は、5人の娘たちを、何でも均等にした。食べ物もきっちり5等分だった。
スイカ1玉を切り分けるときは、はかりに掛けて、5人がじゃんけんで選んだ。丸いものは偶数で分けるのは簡単だが、奇数はこつがいる。「おかげで奇数に分けるのは得意」とゆみこさんはくりっとした目で笑う。
本当は大学に行きたかったが、あきらめたのだと、ゆみこさんは言う。「お前が行ったら、みんなあ行かないかんなる」と父親に言われたからだ。姉妹は進学をしなかったが、末っ子には推薦入学の話があった。大学に行きたい、と妹は言った。「上のみんなの許可がないと、お前を行かせられん」と父は言った。
「行かしてもろうてもかまんろうか」。尋ねる妹に「そりゃあんた、行ったらえい。その代わり頑張らないかんよ」とゆみこさんは答えた。姉妹全員が賛成し、末の妹は進学した。
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5人姉妹はそれぞれ結婚し、年に3回、両親の誕生日とお正月、お互いの家族と一緒に、かつて暮らした家に集まるようになった。「母が作った料理を、父が皿鉢に盛りつける。『こんなのも食べらしちゃりたい』ってテレビとかで研究しゆみたい」とゆみこさん。
でも「みんなぁ、お酒が好き」という姉妹は、その日をしらふで過ごす。夫たちが飲むため、みんな車の運転をしなければならないからだ。
だから「年に1回、女だけの飲み会」を始めたと、ゆみこさんは言う。
ことしで3回目。母親と5人姉妹、そしてめいっ子たちが集まり、「子供の話とか、体壊してない、大丈夫とか、友達同士で飲みゆう感じ」だそう。
姉妹の夫はみんな長男。「長男は自分の好きなばあ食べて、分けることを知らん」と、5人の妻は声をそろえるらしい。(飯野浩和)