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2024.02.07 08:00

小社会 群生するバイカオウレン

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 〈美しい「花」がある、「花」の美しさという様なものはない〉--評論家・小林秀雄のよく知られた文章だ。現実には「花の美しさ」なんていう抽象的なものはない。あるのはそれぞれの花が持つ固有の美しさだ、と。

 今年もまたバイカオウレンの花を楽しめる季節が巡ってきた。そのたび冒頭の言葉を思い出して、しみじみとする。ただし正確を期するなら、白い花のように見えるのは花弁ではなく萼片(がくへん)である。それもまた花としておこう。

 NHK朝ドラ「らんまん」初回の週タイトルはバイカオウレンだった。牧野富太郎博士は、故郷に咲き続ける白い小さな花を愛した。ドラマには博士の記憶に存在していなかった母が登場した。主人公の万太郎は、その白い花に早世した母の面影を重ねた。

 バイカオウレンの美しさは、「点」よりも「面」にある。もちろん一点一点の花は愛らしく可憐(かれん)で、わざわざ極寒に咲くというけなげさにも感心する。近寄って、じっと見つめる。けれどバイカオウレンが群生する自然空間にこそ心うたれるものがある。

 佐川町加茂の人たちが手を掛けている群生地も花の見頃を迎えていた。スギが植わる湿潤な林床にあって斜面を好んで咲いていることが分かる。コケとも親密そう。薄暗い森の中で群生する白い花たちが神秘の光を放っているかのようだ。

 美しい花がある。その美しさを育んでいるかけがえのない自然があり、人がいる。

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