2023.10.13 08:00
【解散命令請求】被害救済につなげてこそ
昨年7月に安倍晋三元首相が銃撃され死亡する事件が起きた。逮捕された男が旧統一教会への恨みと供述し、献金や家庭崩壊などの被害が改めて関心を集めた。岸田文雄首相は昨年10月に、宗教法人法に基づく調査を関係閣僚に指示している。
文化庁は、宗教法人法が解散命令の要件として規定する「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」があった場合などに該当するかどうかを調べた。計7回の質問権行使により、組織運営や教団本部がある韓国への送金などの資料提出を求めてきた。
法令違反が理由の解散命令はオウム真理教など過去に2件ある。いずれも幹部が刑事事件に問われている。しかし、旧統一教会は幹部の刑事事件がない。このため、証拠集めは教団の法的責任を認めた民事判決を重視したようだ。高額献金被害の規模や実態を明らかにするために、多数の被害者への聞き取りも重ねてきた。
首相は、解散命令請求の要件に民法の不法行為も含まれるとの認識を国会で示している。文化庁は不法行為の「組織性、悪質性、継続性」を立証する構えだ。質問権行使で集めた資料や高額献金被害者の証言を精査した結果、献金集めへの組織的な関与など解散命令の要件を満たすと判断したとみられる。
宗教法人審議会への諮問は質問権行使の際には義務付けているが、解散命令請求は規定されていない。それでも今回は審議会に意見を聞く手続きをとったのは、解散命令請求の正当性を高めたい思いがあるとみられる。信教の自由が絡む問題であり、抑制的な対応を求める法の趣旨からも慎重を期すのは当然だ。
これに対し、教団側は解散命令請求の要件は刑事事件に該当する行為であり、民法の不法行為は解散命令の要件に当たらないと主張する。それにもかかわらず、民事判決でも権限行使できるように政府側は解釈を強引に変更したと批判している。
文化庁は、質問権行使で尋ねた項目の約2割に教団側が回答しなかったとして、過料を科すよう東京地裁に申し立てた。教団側は質問権行使自体がそもそも違法と訴える。これらは公判での論点となる。
安倍氏銃撃事件後に、自民党議員らと教団の密接な関係が相次いで発覚した。解散命令請求にまでこぎ着けたのは首相の意思が影響したことは間違いないが、政治との関係では及び腰の印象が強い。政治家に「丁寧な説明」を求めるだけでは納得と信頼は得られはしない。
事件を受けて、「宗教2世」への人権侵害や困窮が表面化した。不当寄付勧誘防止法が成立、施行されたが、被害防止と救済への実効性を高めることも重要だ。