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2023.10.12 08:00

【藤井聡太八冠】あくなき向上心の末に

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 長い将棋界の歴史に、節目となる一ページが刻まれた。第71期王座戦に挑戦者として臨んでいた藤井聡太七冠が、永瀬拓矢王座を破ってタイトルを獲得し、八冠を制した。
 将棋のタイトルが、叡王戦を加えて過去最多の八大タイトルとなった2017年以降、全冠を同時に保持したのは初めてだ。1935年に最初の名人戦が始まってから、タイトルを全冠独占したのは羽生善治九段らに続いて4人目となる。その高みに、プロデビューからわずか7年、21歳2カ月の若さで到達した。
 いったいどこまで強くなるのか。進化、強さに目を見張る。もちろん才能もあるのだろうが、それにあぐらをかくことなく、不断の努力を重ねた末の結果に違いあるまい。偉業をたたえたい。
 藤井八冠はプロ入り決定時から注目される存在だった。
 2016年に、史上最年少記録となる14歳2カ月でプロデビューすると、前人未到の29連勝を達成。20年7月には17歳で初タイトルとなる棋聖を獲得し、タイトル獲得の最年少記録を30年ぶりに更新した。
 それ以降も、タイトルを次々と手中に収め、今年6月には名人を20歳10カ月という最年少で奪取。羽生九段に続いて七冠となり、八冠に王手をかけていた。
 最年少名人の記録を破られた谷川浩司17世名人は、藤井八冠の台頭を「新たな歴史の瞬間に立ち会っているのかもしれない」とし、「既成概念を覆す強さ」と評する。特にタイトル戦には強く、出場した全てを制している。
 その強さを生み出した一つが、人工知能(AI)を活用した戦術、戦況の分析だとされる。藤井八冠は早い段階から積極的に取り入れてきたことで知られる。
 もともと、詰め将棋の鍛錬などにより終盤の強さは圧倒的だったが、AIによる研究で序盤、中盤の戦術が急成長し、ペースを握るとそのまま押し切るケースが目立ちだした。対局中にAIが勝率を示すグラフが、中盤から終盤にかけて右肩上がりの曲線を示し、「藤井曲線」という言葉も生まれた。
 将棋の無類の強さとは対照的に、インタビューなどで見せる素顔は、常に謙虚で自然体だ。対局に勝利しても、まず反省が口をつき、あくなき向上心、探究心を見せる。
 そうした姿勢、振る舞いが人を引きつけるのだろう。人気は将棋界にとどまらない。将棋の魅力を発信し、ファンの裾野を広げた功績も大きいと言える。
 タイトルを独占した藤井八冠だが過去には「記録より、どこまで強くなれるかが自分にとって大事だ」と語っている。現状に満足することはあるまい。どこまで上り詰めるのか。通算タイトル獲得数など記録面も含めて、今後が楽しみだ。
 裏を返せば、「1強」の独走をライバル棋士たちがどう止めるか、という点にも興味が増す。その中で名勝負が繰り広げられれば、将棋界はさらに活気づくことだろう。

高知のニュース 社説

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