2023.10.06 08:00
【ジャニーズ会見】迅速に被害補償できるか
一部のファンや所属タレントには複雑な思いもあるようだが、心に深い傷を負った被害者の心情を考えれば当然の判断だ。旧体制からの刷新を強調した格好だが、再出発には被害者と真摯(しんし)に向き合う姿勢が欠かせない。
記者会見などの説明によると、被害者の補償を担うスマイル社では、前社長の藤島ジュリー景子氏が代表権を返上するものの、「法を超えた救済」を可能にするため株式100%をそのまま保有。補償対応を終えた時点で廃業するとした。
一方、タレントのマネジメントや育成は、新会社に移行。ファンクラブを通じて名称を公募し、1カ月以内に設立する。創業家と一線を画すため、藤島氏は新会社に出資せず、取締役にも就かない。
経営の重荷になる事業と収益を期待できる事業を別会社に分離する手法は、一般的に企業再建策としてよく使われる。ジャニーズ事務所の場合、歴史に残る悪質な被害を生んだ上下関係のゆがみや隠蔽(いんぺい)体質を、新会社に引きずらないことが何より重要となる。
資本関係を断ち切る判断は評価できるとしても、両社のトップを務める東山紀之氏が果たして旧弊を完全に排除できるかどうか。そのかじ取りが注目される。
外形的に「解体的な出直し」への枠組みを示したが、現段階ではその本気度を判断するのは早計だ。ジャニーズ事務所が設けた補償受付窓口には9月末時点で478人から連絡があり、このうち325人が補償を求めているという。これも氷山の一角とみて間違いない。
しかし、9月に開かれた前回の記者会見では、「これまでタレントが培ったエネルギーやプライド」(東山氏)として「ジャニーズ」の看板に強いこだわりを見せていた。いかに性被害を軽く考え、事態を甘く見ていたかが表れていよう。
一転して名称変更に追い込まれた背景には、人権を重視するスポンサーの企業や世論の反発があった。被害者に向き合う姿勢よりも、ビジネスの論理が浮かび上がる。11月に始めるとした補償に関しても現時点では具体性に乏しく、協議の在り方や補償の基準が不透明だ。偏見や批判を恐れ、手を挙げられない被害者にどう謝罪や補償を届けるかを含めて課題は多い。
記者会見についても、特定の記者に発言させないよう「NGリスト」が存在したことが判明している。こうした不誠実な姿勢で、喜多川氏の影と本当に決別できるのか。再出発には被害者の理解が不可欠となる。丁寧な対応を積み重ねて、不信感を払拭するしかあるまい。