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2023.10.01 08:00

【いじめ防止対策】学校での把握は進んだが

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 「いじめ防止対策推進法」の施行から10年たった。早期の発見や対応で被害の深刻化を防ぐ狙いだが、いじめを苦にした子どもが自ら命を絶つ悲劇が依然としてなくならない。小さなSOSを見逃すことがないよう、緊張感を持って対策を積み重ねていく必要がある。
 いじめ防止対策の法制化は、悲劇がきっかけだった。2011年に大津市の中2男子がいじめを受けて自殺。対応した学校や市教育委員会の隠蔽(いんぺい)体質が露呈して、社会的非難を浴びた。
 13年に議員立法で成立した同法は、いじめを「児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義。いじめへの対応や防止について学校や行政などの責務を規定した。
 特に、心身などに重い被害が生じたり、長期欠席に至ったりした「重大事態」では、教委や学校の下に組織を設けて事実関係を調査。その結果を被害者側へ適切に情報提供するよう義務付けた。
 最大の効果は、学校でいじめの「掘り起こし」が急速に進んだことだろう。
 文部科学省の調査によると、同法が施行された13年度、全国の小中高校などで認知されたいじめは約18万5800件だったが、21年度には61万5千件余りに増加した。同法により、学校現場で積極的ないじめ把握への意識が高まったのは確かだ。
 一方で、最悪の事態が後を絶たない現実は、なお対応が不足していることを示している。
 子どもが深刻な被害を受けた「重大事態」のうち、約44%は事前にいじめを把握できていなかった。交流サイト(SNS)の普及もあって、いじめの形態は陰湿化、巧妙化している。日々、子どもと接する教員にも把握がより難しくなった状況を踏まえた対策が求められる。
 さらに、子どもの安全を見守り、被害を防ぐべき大人の側にも問題を指摘せざるを得ない。
 最近表面化した事例でも、明らかに重大ないじめ被害に遭った疑いがあるにもかかわらず、学校側が「重大事態」として対応していなかった事例が散見された。同法が求める実態調査を放置したり、第三者委員会の調査がかえって被害者や家族の不信感を招いたりしたケースもみられる。
 相次ぐ学校側や教委の不適切な対応には、現場や第三者委に専門的な知識やノウハウが不足している場合もあろうが、いまも一部に隠蔽体質や事なかれ主義が根強く残っている表れではないか。問題のあった事例の検証などを通じて、子ども本位の意識を徹底する必要がある。
 政府は、いじめ防止対策として学校の外に、子どもが相談できる場を設ける事業のほか、警察との連携を促している。学校の対応に頼るだけでは、やはり限界があろう。
 子どものいじめ防止はむろん、家庭にも、地域社会にとっても重要な問題だ。関係機関の連携のほか、身近にいる大人が多層的に健やかな成長を見守りたい。

高知のニュース 社説

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