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2023.09.29 05:00

【水俣病訴訟】国は根本的救済を急げ

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 水俣病特別措置法による救済策の是非が問われた集団訴訟で、大阪地裁は原告128人全員を水俣病と認定した上で、国などに計3億5200万円(1人当たり275万円)の損害賠償を命じた。
 厳しすぎると批判がある国の患者認定基準や、救済対象を限定した特措法に強く疑問を投げかけ、国に救済政策の抜本的な転換を迫ったといってよい。
 原告の訴えに寄り添う判決といえるが、上級審や同種の裁判も続くなかで、最終解決への道のりは遠い。水俣病の公式確認からすでに67年が過ぎ、原告の高齢化も進んでいる。国は早急に根本的な救済に踏み切るべきだ。
 未曽有の公害病でありながら、水俣病を巡る国の対応は被害の矮小(わいしょう)化を図ってきたとみられても仕方があるまい。
 国が1977年に定めた患者の認定基準は、手足の感覚障害や視野狭窄(きょうさく)など複数の症状の組み合わせを条件とした。
 この基準を満たしていない被害者らによる訴訟が相次ぎ、国は95年に未認定者の救済に関する政治解決策を打ち出した。1万人を超す未認定者に一時金を支給したが、申請期間が約半年と短く、多くの被害者を救済するには至らなかった。
 2004年には最高裁が行政基準より幅広く被害を認定したものの、国は基準の見直しには動かなかった。こうした状況を受け、議員立法で成立した特措法は「あたう(可能な)限りの救済」をうたったが、実態はかけ離れていたと言わざるを得ない。国が居住地域や年齢を限定する「線引き」の原則をかたくなに維持したため、多くの被害者が救済対象からこぼれ落ちた。
 大阪地裁判決はこうした国の対応を指弾。メチル水銀に汚染された魚介類を多く食べて発症する可能性や、水銀暴露から長期間たってから発症するケースを挙げ、「線引き」の合理性を否定した。
 「原告らの症状は水俣病以外に説明ができない」としたのは、市民感覚に沿った判断と評価できよう。国は賠償請求権が消滅する「除斥期間」(20年)の経過を主張したものの、水俣病の診断時が起算点になるとして退けた。
 だが、上級審に加え、同種の訴訟も続く状況では、最終的な解決は見通せない。東京、新潟、熊本を加えた4地裁の原告は1700人を超える。偏見などを恐れ、いまだ手も挙げられずに健康被害に苦しむ潜在的な被害者もいよう。
 過去の基準や方針に固執する国の姿勢が解決を遅らせていることは明らかだ。国や熊本県、原因企業のチッソはいつまで解決を遅らせるつもりなのか。
 水俣病を1956年に公式に確認しながら、国は被害者団体が求め続ける実態調査も行わず、被害の全容さえ明らかになっていない。救済を巡って法廷闘争が続く現状こそ、国などがその責任を果たしてこなかった表れにほかならない。

高知のニュース 社説

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