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2023.09.24 08:00

【国葬記録集】課題の検証こそ重要だ

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 課題の検証や批判が除外されては記録としての価値は損なわれる。是非を含む多彩な意見を残すことで将来の参考資料となり、検証にも役立つことになる。都合よく幕引きを図ろうとしても批判は大きくなる。
 安倍晋三元首相の国葬が執り行われてまもなく1年になる。政府が作成した記録集の写しを共同通信が入手した。
 それによると、記録集は国葬実施や予備費使用の閣議決定文書や実行幹事会の概要、当日の司会進行表などの事務資料が並ぶ。その一方で、問題点を洗い出す有識者ヒアリングの内容は含んでいない。過去に公費支出した首相経験者の葬儀記録に倣った構成だという。
 政府が昨年末に公表した論点整理は、ヒアリング結果を羅列しただけで、批評や分析に踏み込まなかった。記録集ではさらに検証の意欲は後退しているようだ。
 だが、安倍氏の国葬を巡り、世論の賛否が大きく割れたことは無視できない。実施基準の曖昧さや、決定過程の不透明さへの批判は根強い。国会への十分な説明がないまま実施を閣議決定した岸田政権に対し、法的根拠や基準の明確化を求める意見が相次いだ。
 実施基準や約12億円の経費の妥当性を検証した有識者ヒアリングでは、実施には政府や国会の事前調整が必要だったとの見解が相次いだ。超党派の支持が望ましいのに、合意形成の努力が不十分だったとの指摘もあった。こうした疑義があったにもかかわらず、報告書には公式には残されないことになる。
 松野博一官房長官はかつて、首相経験者の国葬を巡り、実施手順に関するルールづくりを検討するとしていた。しかし、実施基準は明文化しないという。誰を対象とするかなどは、時の内閣が責任を持って判断するとの考えを示した。
 今回の国葬を決めた理由について、松野氏は報告書の序文に、憲政史上最長の8年8カ月にわたり首相の重責を担ったなどと従来の政府見解を示した。だが、それは安倍氏の一側面であって、政治姿勢への評価は大きく割れていた。
 有識者ヒアリングでも、国葬実施の対象者の基準を一律に定めるのは困難との見解が多かった。確かにその通りだろう。かといって、判断が時の政権の裁量に委ねられるようでは再び世論を分断させかねない。
 政府は国会への対応方針として、実施決定後に国会に説明し、国葬終了後にも概要を国会に報告する考えを示した。衆院は国会の関与が必要と大方の意見が一致したとの判断を示している。それに呼応して議論の区切りとしたいのだろうが、関与の在り方は重要な論点だ。
 それだけに、十分な検証がまず必要となる。岸田文雄首相は国会審議で、今後に役立つよう検証を行う考えを表明した。しかし、その作業はうやむやになっている。批判的な世論が薄らぐのを待ってやりすごそうとしているのだろうか。そんな姿勢は受け入れられない。

高知のニュース 社説

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