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2023.09.17 08:00

【国会召集訴訟】憲法上の義務見つめ直せ

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 安倍内閣が2017年、臨時国会の召集要求に応じなかったのは憲法違反だとして、野党の国会議員らが国に損害賠償などを求めた訴訟3件の上告審で、最高裁はいずれの請求も棄却した。ただし、安倍内閣の対応が正当だったと認めたわけではない。
 判決で、内閣は憲法53条に基づく臨時国会の召集義務を負うと指摘し、裁判官の1人は召集の遅れには賠償が相当だとの反対意見を付けている。政府は、国会を軽視するあしき前例を積み重ねてきた姿勢を猛省し、「憲法上の責任」を誠実に果たさなければならない。
 憲法53条は、衆参両院いずれかの4分の1以上の議員が要求すれば、内閣は臨時国会の召集を決定しなければならないと定める。召集までの期間は示していない。
 野党は17年6月、これを根拠に森友・加計学園を巡る問題を解明するため、臨時国会の召集を求めた。しかし、安倍内閣はこの要求を放置。98日後に臨時国会を開いたものの、冒頭で衆院を解散し、実質的に審議を拒絶した。政権にとって都合の悪い議論を避けたとみられても仕方があるまい。
 最高裁はまず、要求があった場合には召集の義務があると指摘した。裁判官4人の多数意見では、各議院の少数派の意思を反映する趣旨にも触れたが、個々の議員活動の権利や利益が侵害されたともいえないとして請求は退けた。安倍内閣の対応に関して違憲性に言及せず、形式論にとどまった印象は拭えない。
 ただ、宇賀克也裁判官は反対意見の中で、天変地異や戦争といった特段の事情がない限り、召集に応じない対応は違憲だと断じた。召集に必要な合理的期間も自民党の憲法改正草案などを挙げた上で「20日あれば十分」と踏み込んでいる。政府・与党はこの指摘を重く受け止める必要がある。
 安倍内閣以降、憲法53条に明文で規定されているにもかかわらず、臨時国会の召集義務は形骸化してきたと言わざるを得ない。
 野党は、菅政権時に新型コロナウイルス対応で、岸田政権下でも世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題などを受けて早期の召集を求めたが、政権の腰は重かった。時の政治状況によって、召集時期を恣意(しい)的に決められると都合よく解釈している証左ではないか。
 国政上の懸案について審議がなされなければ、不利益を被るのは野党だけではない。必要な情報が伝わらない有権者こそ、最大の「被害者」といえよう。憲法上の義務を果たさず、国権の最高機関と位置付けられる国会を軽視するようでは、政治への信頼を自ら裏切るに等しい。政治の劣化の表れといっても過言ではあるまい。
 本来、政府が憲法上の責任を誠実に果たすべきだが、その姿勢を欠くのであれば、厳格なルールを設ける必要もあろう。判決を機に、自己改革が進まないなら政治不信は一層深まる。

高知のニュース 社説

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