2023.09.05 08:00
小社会 人生最良の日
今年もメジカの新子の季節を迎えた。ソウダガツオの幼魚である。その意外な食感とうまみあふれる新鮮な刺し身には、ブシュカンの野性的で爽やかな酸味が欠かせない。こうしたメジカ新子の生食は久礼や須崎の食文化であったが、広く高知市内でも食べられるようになってきた。
須崎の友人の船に乗せてもらって、そのメジカを釣りに行ったことがある。ぽつぽつと釣れて、程なく十分なものになった。釣れた一匹一匹の首を折って血抜きをし、すぐに氷水を入れたクーラーボックスに入れていった。釣ることよりも食べることが主眼にある。
早々に港へ上がり、須崎の山中にある友人の家に向かう。そこにはブシュカンの実がちょうどなっているのだ。その必要な量だけの収穫作業もまた楽しい。
自宅に帰り着き、釣った新子をさばいて食べる。冷たいビールとともに、至福の美味が夏の夕刻に溶けていった。
あの夏の日の幸福は、そのように忘れがたい。高知の海で魚を釣って、高知の山で果実を得た。人類本来の「労働」とは、こんなふうに愉快な快いものだったのではないだろうか。