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2023.09.04 08:00

【学術会議】在り方論に歴史忘れるな

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 日本学術会議の在り方を検討する政府の有識者懇談会がスタートした。「国の特別機関」として現行の運営を続けるか、民間法人に移行するかも含め抜本的に論議する。
 菅義偉・前首相による会員候補者の任命拒否問題を発端とした論議である。学術会議が反発する中、政治主導の学術会議改革論につながらないか危惧する。拙速に結論を出すことがないよう求める。
 学術会議は日本における科学者の代表機関である。科学の発展を目指し、政府に対して政策提言や勧告も行う公的な役割を担う。
 使命を果たすため折に触れ、組織の在り方を論議する意義はあろう。ただこの組織が、先の戦争の教訓と反省の上に成り立っている点は絶対に忘れてはならない。
 人々の幸福を追求する科学が戦争に利用され、多くの命や財産を奪った。科学者としてその惨禍を二度と繰り返さないようにするのが、1949年に発足した学術会議の出発点でもあった。
 その実現には当然、政治の干渉を受けない機関でなければならない。日本学術会議法にも政府から独立して業務を行う旨が記されている。組織の改革も学術会議が主体的に行うのが本来のかたちであろう。
 学術会議の会員は210人で任期は6年。3年ごとに半数を入れ替える。会員は学術会議の推薦に基づき、首相が任命する仕組みだ。
 菅氏は2020年、推薦された新規会員候補者のうち6人を任命しなかった。岸田文雄・現首相も踏襲しているが、政府はいまだ任命拒否の理由を明らかにしていない。
 6人は過去に政府の法案などに反対したことがある。もちろん政府の政策に批判的な科学者が会員になれないようでは、学術会議は使命を果たせなくなる。
 政府や自民党の関係者は「会員選考に透明性が必要」などとも指摘。政府は今春、選考に第三者を関与させる学術会議法改正案を国会に提出しようとしたが、学術会議や野党の反対で断念した。その後も経費の国費負担の見直しや民間法人化論などが浮上し、今回の在り方論議開始につながっている。
 党内には以前から学術会議を疎ましく捉える動きがあった。防衛力強化のため政府は軍事応用ができる先端技術の育成を目指すが、学術会議は戦争に加担するような研究に一貫して反対してきた。
 関連する17年の声明に際しては党内から「時代錯誤だ」との批判も出た。一連の揺さぶりはその延長線上にあるように映る。
 政治が学術組織の人事に介入したり、在り方の改革を迫ったりするようでは再び道を誤りかねない。国内外のノーベル賞受賞者などからも懸念の声が出ている。
 有識者懇談会は月1、2回のペースで開かれるという。将来に禍根を残す流れにしてはならない。政府がまず進めるべきは任命拒否の理由を明らかにし、拒否問題の解決を早急に図ることである。

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