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2023.09.04 19:43

創業120年の酒蔵で、酒造り体験を! 高知県四万十町の文本酒造 全国的でも珍しい醸造体験施設を計画―EINEE高知

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文本酒造のリニューアルに取り組む阿部達也さん=中央=とスタッフ(四万十町本町)

文本酒造のリニューアルに取り組む阿部達也さん=中央=とスタッフ(四万十町本町)

 高知県四万十町の小さな酒蔵「文本酒造」。創業120年の老舗は、2022年に経営陣が刷新しました。四万十川の伏流水と同町のブランド米「仁井田米」を使った新たな酒を今年5月に発売し、酒蔵敷地内に日本酒ペアリングBAR「お酒やさん」もオープン。外国人観光客の受け入れも視野に入れる中で、全国でも珍しい酒造りが体験できる施設を造ることを計画。クラウドファンディングで支援を呼び掛けています。

 文本酒造は1903年創業。「日乃出桃太郎」や「呑みほうばい」などの銘柄で知られ、近年は旧窪川町唯一の酒蔵として歴史を紡いできました。ただ新型コロナウイルスの感染拡大により、日本酒の需要が低下。2020年以降は酒の製造を止め、在庫の販売のみとなり、経営危機に陥りました。

 この状況を聞きつけ事業継承に乗り出したのが、現在の専務取締役、阿部達也さん(52)。日本航空(JAL)から出向し高知県観光コンベンション協会で働いていたとき、文本酒造の窮状を知りました。

 「酒好きやったし、JALにおったときはずっと営業職で、サービス業。メーカーになりたいという憧れがあった」

 阿部さんは一念発起し、文本酒造の事業継承を決意。JALを退職し、茨城県の酒蔵から杜氏(とうじ)の石川博之さんを迎え、2022年に再スタートしました。

改装した文本酒造の醸造施設。天井の梁(はり)からは酒造の歴史を感じられます(四万十町本町)

改装した文本酒造の醸造施設。天井の梁(はり)からは酒蔵の歴史を感じられます(四万十町本町)

 3年間酒造りを止めていた酒蔵は、機器もさび付きボロボロの状態に。阿部さんらは県や四万十町の補助金も活用して約2億円をかけ、食品衛生管理認証「HACCP(ハサップ)」に対応できる新しい醸造設備を整備しました。

今年5月に発売した純米大吟醸「SHIMANTO」(文本酒造提供)

今年5月に発売した純米大吟醸「SHIMANTO」(文本酒造提供)

 今年5月、石川さんが仕込んだ純米大吟醸「SHIMANTO」と濁り酒「霧の里」を新発売。「SHIMANTO」はうま味と酸味のバランスが取れ、スッキリとしたキレのある味わい、「霧の里」はまろやかで食事に合う酒になっています。どちらも日本酒の飲み方の幅を広げようと、キャンプなどアウトドアにも持って行きやすいスパウトパウチに入れて販売しています。

古民家を改装した日本酒ペアリングBAR「お酒やさん」(四万十町本町)

古民家を改装した日本酒ペアリングBAR「お酒やさん」(四万十町本町)

 今年5月にオープンしたBAR「お酒やさん」は、酒蔵に隣接する前オーナーの母屋を改装。古民家の雰囲気を漂わせる店内では、「SHIMANTO」や「霧の里」はもちろん、地元の四万十ポークのソーセージや仁井田米を楽しむことができます。口コミで人気が広がり、県内外や海外からもお客さんが訪れています。

 阿部さんらは、人口減少が進む四万十町ににぎわいの場を生もうと、観光客らに自分の手で酒を仕込んでもらう「酒造り体験」を計画しています。近くの四国霊場第37番札所「岩本寺」と連携し、岩本寺の宿坊に泊まりながら米を蒸したり、こうじをまぶしたりする酒の仕込みを体験する2泊3日のプランを予定。食事には高知の皿鉢料理なども提供し、実際に酒が造られる工程と、美しい四万十川の自然や原料の仁井田米が育つ土壌などの「テロワール」を体感してもらうプランになっています。

 観光客らが酒造り体験をするためには、現在文本酒造にある醸造用タンクでは大き過ぎるため、体験用に小型のタンクを5台導入する計画。そのほか、小型の搾り器や蒸し器、また酒造りの雰囲気や工程を多言語対応したAR(仮想現実)で見られる機器の導入も予定しています。酒蔵見学ができる蔵元は多数ありますが、手間暇がかかる酒造り体験を行っている蔵は「全国でも珍しい」(阿部さん)といいます。

全国的にも珍しい、酒造りを体感できる施設を計画しています(文本酒造)

全国的にも珍しい、酒造りを体感できる施設を計画しています(文本酒造提供)

 阿部さんは「体験施設は、なぜ仁井田米を使っているか、テロワールにこだわっているかを知ってもらう窓口。宿泊で来てもらって、地域の人と一緒にお酒を飲んでご飯を食べて、こんな町だからこんな酒ができているんだと知ってほしい」と語ります。

 すでに酒造り体験について海外の旅行会社から問い合わせも来ているそう。観光客だけでなく、地元の窪川高校の生徒たちにも酒造りを体験してもらい、20歳になった時に仕込んだお酒をプレゼントするという企画も考えています。

 「『かっちょわるい』『仕事がない』と過疎が進む四万十町から出て行くのではなく、地域の高校生には『うちの町、見に来いよ』と言えるようなプライドを持ってほしい。諦めが一番駄目。やれるやんっていうのを僕たちが見せてあげたい」

 新しい時代に合わせた酒造りの発信で、地域の未来を描こうとしています。(楠瀬健太)

 クラウドファンディングの目標額は300万円。10月31日まで募っています。詳しくはこちら

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