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2023.08.08 08:00

小社会 植物図鑑を携えて

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 生きている限り死者に再び会えることはない。しかし死んでしまえば、会えるかもしれない。つまり「あの世」での再会である。

 そうした思いから哲学者の三木清は「人生論ノート」を次のように書き出した。〈近頃私は死というものをそんなに恐ろしく思わなくなった〉。生者が死者に再会できる可能性はゼロと断言できる。けれども「あの世」で会いたい人との再会の可能性を否定できる者はいない。三木は〈死者の国から帰ってきた者はないのであるから〉と書く。これはもう理屈を超えたところにある三木の祈りだろう。

 朝ドラ「らんまん」の万太郎もまた初子である園子を失った悲嘆の中で言葉を絞り出す。〈いつの日か、わしらも園ちゃんに会いに行く〉。私たちの文化は死者の国の存在によっても支えられている。

 たとえそれが幻想であっても、そう思って生きていくほかはない。そして万太郎には死者の国に携えていきたい物がある。植物図鑑である。

 牧野富太郎博士も31歳の時に、初子の園子を亡くした。植物採集の山中にあっても〈おその〉のことを忘れることができず涙を流し続けている―高知から東京にいる妻の寿衛(すえ)に宛てた手紙が残っている。

 博士の大志は日本の植物全てを分類して明らかにすることにあった。その成果として「牧野日本植物図鑑」がある。博士は死者の国に植物図鑑を携えていった。さて、私たちみんな何を携えていこう。

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