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2023.08.07 08:37

サボテンに愛と情熱を 高知県立牧野植物園技師 上杉翔さん(33)芸西村―ただ今修業中

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「毎日がお見合いみたいです」と言う上杉翔さん。名を知らない植物と出合うのが楽しくてたまらないという(高知市の県立牧野植物園)

「毎日がお見合いみたいです」と言う上杉翔さん。名を知らない植物と出合うのが楽しくてたまらないという(高知市の県立牧野植物園)


 「これはツキトジ。マダガスカル原産。(人形の)シルバニアファミリーのような、ほわほわっとした手触り」「お隣はニジノタマ。ぷくっとしててグミみたい。秋には真っ赤に色づきます」「ああ、きゅっとなって、暑さを耐え忍んでますね。こちらは…」

 県立牧野植物園(高知市五台山)の「ふむふむ広場」の一角に今春、多肉植物が登場した。解説をお願いすると、話が止まらなくなる。

 栽培技術課の技師として3年目。牧野富太郎博士にも引けを取らない愛と情熱をサボテンに注ぐ。園職員からは「サボテン王子」と呼ばれている。

 ◆

 幼い頃は虫取りに夢中だった。自動販売機の下でカブトムシを探し、幼稚園のかばんにイモムシを入れていた。捕れば、何を食べているか知りたくなる。スズメガは芋の葉、ツマグロヒョウモンはスミレ…。自然と草花が身近になった。

 県立安芸中高校を卒業後、京都の大学へ。Uターンし、村役場の臨時職員を経て、24歳で地元レストランで働き始めた。そこで“気になるあの子”に出合ってしまった。

 いつも窓際にいる、ころんと丸い子。黄色いトゲがあり、直径30センチ、高さ60センチほどのサボテン。料理を運びながら、ついつい横目で追ってしまう。「周りは『あんな、いかついものを』と言うんです。でもかわいらしくて、どうしようもなく気になって」。気付いた時には「サボテンの沼にはまっていた」。

 地味だが、「姿形が普通じゃなくて面白い」。初めて南国市の専門店に足を運ぶと、歓喜のあまり、段ボール2箱分の20鉢を一気に購入。鉢はどんどん増え、今は自宅の庭に鉄パイプとビニールで作ったサボテンハウスがずらり並ぶ。

 「ずーっと一緒にいたい」と思うまでになった時、園がガイドを募集していることをホームページで知った。すぐに履歴書を速達で送り、2018年に晴れて園職員となった。

 ◆

 園で客を案内し、見頃の花を紹介して回った。植物の知識は増え、やりがいはあった。ただ、園を手入れする栽培技術課の技師が「植物とたわむれている」ようでうらやましかった。

 「自分はかわいがった草花を見てもらって、人に喜んでもらいたいんだって気付いたんです。植物にもっと近づきたい、抱きつきたい」

 希望がかない、21年に念願の異動。今は「こんこん山広場」「ふむふむ広場」の計2ヘクタール以上の整備を4人で担う。朝の落ち葉掃きに始まり、草刈りや剪定(せんてい)、次々と届く花の苗のポットの整理…。春のイベント時には2万株の花の植え替えで1日が終わる。

 多忙な中、多肉植物の面白さを伝えるコーナーを作りたいと上司に提案した。企画書を何度も書き直し、品種選びに悩んだ。ようやく半年後にゴーサインが出て今春、植物と触れ合える「ふむふむ広場」に5種の多肉植物が加わった。

好きな言葉

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 小さな一歩だが、新しい扉を開いた気がした。ただ、サボテンはまだ表舞台に立たせることができていない。たくさんの人に魅力を伝えたい思いが募る。

 夏の日差しに負けない、熱いまなざしで言い切った。

 「こっからが勝負」

 写真・新田祐也
 文 ・浜田悠伽

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