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2023.08.02 08:00

小社会 悪魔の飽食

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 亡くなった森村誠一さんは「悪魔の飽食」を共に書いた下里正樹さんを「戦友」と呼んだ。戦争にまつわる言葉を軽々しく使う人ではなかったから、よほど彼と、作品への思い入れがあったのだろう。

 旧日本陸軍731部隊に切り込んだきっかけは、元隊員からの1本の電話だ。「ただならぬ予感」を得た森村さんは、新聞記者で自作連載の編集者だった下里さんとの共同取材、執筆を提案する。

 当時求めた内容を示すメモが残る。「森村は原稿料不要 タダで良い その代わり、下里氏の身柄がほしい 取材経費には糸目を付けない」。

 トップ作家の信頼を得た下里さんは、全国各地を歩き回る。部隊の組織や施設図に始まり、人体実験、生体解剖、毒ガス使用、その被害者数といった歴史的証言を集めていく。発掘した人物や証言は、のちの部隊研究の礎となった。

 希代のヒット本は、やがて写真の誤用発覚という苦しい経緯をたどる。森村さんは「国賊」「非国民」との中傷を浴びる。作家と記者は、ミスをわび、出版社を代えて改訂版をだし、証言や図を執念で世に残す。この点において証言者や読者、ひいては歴史に対して、極めて誠実に向き合った。

 下里さんは、晩年を高知市に暮らし、あるとき両手で小さい輪を作り、こう言った。「歴史の評価が右に左に寄ったり、膨らんだり縮んだりしても、芯の所は永久に変わらない」。芯とは「事実」ということだろう。

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