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2023.07.26 08:00

小社会 真っすぐな人

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 まだ小欄が小学生の頃か。「母さん、僕のあの帽子どうしたでせうね?」。西条八十の詩を用いた映画「人間の証明」のCMが、子どもの間でもはやった。その原作者、森村誠一さんの訃報が届いた。

 作家としての原風景に、郷里の埼玉県で体験した空襲がある。闇夜を切り裂く焼夷弾(しょういだん)に、無数の遺体が川を埋め尽くした。その中に初恋の少女を見つけた。「戦争というものが、いかに人間の心身を虐げるか」。

 「悪魔の飽食」は、旧日本軍の731部隊による残虐な人体実験を克明に追及した。最初は、こういうノンフィクションは読まれないと思っていたという。しかし、戦争の魔性を知り「一握りの読者しかいなくても、世の中に知らせなければいけない」。

 捕虜をマルタ(丸太)と呼び、細菌投与や毒ガスの実験といった行為を繰り返す。下級隊員らは戦後も自責の念を引きずっている。森村さんと一心同体で共同作業をしたのが、晩年を高知市で暮らした故・下里正樹さんだった。

 下里さんが明かした当時の取材の様子は2年前、本紙で連載している。元隊員からの電話を端緒に、戦史の空白と呼ばれた部隊の姿がぼんやりと浮かんだ。森村さんが「強烈な使命」を感じ取ったように見えた下里さんは、「真っすぐな人」と評していたという。

 同じ轍(わだち)を踏まない人間の英知を信じる―。森村さんはそう書いた。ただ、人間の心身を虐げる戦争は今も世界で続いている。

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