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2023.06.22 00:04

【K+】vol.198(2023年6月22日発行)

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K+ vol.198 
2023年6月22日(木) 発行

CONTENTS
・はじまりエッセイ letter200 中西なちお
・K+インタビュー 話をしてもいいですか vol.200 横江明子
・特集 あの風景のように|◎プー民族 ◎青竹細工 安澤れみ
・フランス生まれの土佐人便り BONCOIN IN PARIS✉44
・高知を元気に! うまいもの熱伝 volume.72|フキ@高知市
・小島喜和 心ふるえる土佐の日々 第四十五回
・+BOOK REVIEW
・Information
・なにげない高知の日常 高知百景
・シンディー・ポーの迷宮星占術
・今月のプレゼント

河上展儀=表紙写真

→紙面ビューアで見る

特集
あの風景のように
◎プー民族
◎青竹細工 安澤れみ

アジアの民族を手本に、
服作りと竹細工を仕事にしつつ山で暮らす夫婦のこと。

仙頭杏美=取材 河上展儀=写真







質素でも幸せな小さな暮らし 

   香美市の人里離れた山間に、子ども4人と住む安澤さん夫婦。恵介さんは服を縫うことを、れみさんは青竹の竹製品を編むことをなりわいにしています。2人が実践するのは、土地に根差した生活。かつてアジアの旅で出合った、質素でも満たされたように見えた山間民族の暮らしが見本です。
 埼玉県出身の恵介さんと千葉県出身のれみさんは、20代の頃、別々にアジアを旅していました。ネパールで見た山間民族の姿は、都会育ちの若者の心を揺さぶりました。石と藁(わら)で建てられた家で、自ら水をくみ、野菜を育て、必要なものを手作りする人々。「人の生活が、風景の一部に溶け込んでいて、美しいと思いました」。同じ感想を抱いた2人は、旅の途中の宿で出会い、やがて京都で再会。アジアで見た風景のような暮らしがしたいと、大分を経て11年前に高知へ移り住みました。
 それから、およそ月の半分は畑仕事と家周りのことを、半分は仕事をして過ごす日々。必要な分だけ仕事をし、食べ物を育て、時には買って。家族の成長に合わせてバランスを取りながら、小さな暮らしを楽しんでいます。




物作りをなりわいに


 アジアの旅を終え、日本の田舎で物作りをしながら生活することに憧れを抱いたれみさん。竹細工職人の道を選び、京都の専門学校で学びます。竹は最終的に土に返ることや、自然素材でできることなどが決め手でした。京都で工房を立ち上げ、初めは高級な竹製品を作っていましたが、次第に日常の中で使う道具を編みたくなります。
 一方、ファッションに関心があった恵介さんは、京都に引っ越した際、タイの伝統的なパンツ「タイパンツ」を縫って手作り市に出品。それが好評だったこともあり、本格的に服を作り始めます。
 その後、田舎暮らしを求め、大分に渡った2人。家の裏に真竹が生えていたため、その頃かられみさんは、竹を切って材料から作り、生活で使う竹製品を編むようになります。


青竹の編み目の美しさ

 体力と手間を要するため、青竹を材料から用意する女性の職人は全国でも少ないそう。竹細工は、準備に全体の時間の半分を費やすといいます。毎年11〜12月の新月の日、恵介さんと近くの山に入り、1年分の製品に使う真竹を切って集めます。次に竹を割り、面を取る作業などを行い、必要な数の竹ひごを用意。そして、伝統の編み方を組み合わせ、オリジナルのデザインで竹を編んでいきます。「縄文時代からの編み方もあって。世界中で、昔から土地の素材で籠が編まれていて、世界や歴史とのつながりを感じるこの仕事ができてうれしい」とれみさん。
 時間とともに色が変わるのが青竹の魅力の一つです。見た目のかわいさを大切に編むれみさんの竹製品。その編み目の精密さと色合いに目を奪われます。


サルッパカマがモデルの“野良パンツ”(右)。お尻部分が大きく、足首部分が細くなっているため、裾が邪魔にならず動きやすいそう

サルッパカマがモデルの“野良パンツ”(右)。お尻部分が大きく、足首部分が細くなっているため、裾が邪魔にならず動きやすいそう




網代編みの弁当箱。200本の竹ひごをパーツとして作り、編み込む。適度に風を通し、湿度を保つので、おにぎりを入れるのにおすすめとのこと

網代(あじろ)編みの弁当箱。200本の竹ひごをパーツとして作り、編み込む。適度に風を通し、湿度を保つので、おにぎりを入れるのにおすすめとのこと






プロフィール
安澤恵介さん
大学卒業後、約1年半アジアを旅し、現地の暮らしに刺激を受ける。現在はプー民族の屋号で服を独学で作りながら、香美市の山で自給自足に近い暮らしを実践。埼玉県出身。48歳

安澤れみさん
真竹を切って材料から竹製品を作る竹細工職人。満員電車など都会の生活に違和感を覚え、大学時代のアジア旅行を機に日本の田舎で過ごすことを選ぶ。千葉県出身。45歳





自然素材で作る野良着

 プー民族のブランド名で服を作る恵介さん。「自分が着て使えるものを」と、農作業で使う“野良パンツ”を中心に製作。東北の一部の地域でサルッパカマなどと呼ばれている野良着の作り方を取り入れています。「昔ながらの作り方なので布を無駄にしないのと、ゆったりとしたはき心地が良くて」と恵介さん。
 男女が着られるユニセックスの日常着を縫うことも多いそう。布は、綿、麻、リネン、ウールなど天然素材を使用。素朴な手仕事が好きなので、インドやラオスの少数民族の手織り手染めの布も使います。
 アジアの街で見たカラフルな色彩に影響を受けたという恵介さん。その手が生み出す服は、ワンポイントに鮮やかな布がよく使われ、民族衣装風のデザインが着る人の個性を引き出します。


ちょうどのバランスで

 自宅でそれぞれの仕事をしつつ、暮らしに必要な作業もこなす2人。恵介さんは、米を育て、薪(まき)を割って燃料を構え、れみさんは野菜を育て、味噌などの保存食を作ります。手間はかかりますが、自分が作る食材はおいしく、薪は温かく、心も体も満たされるから続けているといいます。
 かつてはもっと自給自足に取り組んだこともありましたが、バランスが大事だと気付いたそう。「今は子育てにお金が必要なので、仕事の比重を多くしています。必要なお金や時間を考え、暮らしと仕事と遊びのちょうどのバランスを見つけられたら」
 あの旅で見た風景のような暮らしを形に。自然の中で、畑を耕し、無駄に買わない、作らないシンプルな日々を送る夫婦。その姿は、たくましく、美しく。山の風景に溶け込んでいるように見えました。

「高知は、自然のエネルギーを感じ、人も明るくて好きです」と、高知の環境が合っているという2人。家族で山の暮らしを楽しむ

「高知は、自然のエネルギーを感じ、人も明るくて好きです」と、高知の環境が合っているという2人。家族で山の暮らしを楽しむ




空き家を自分たちで改装して住宅に。当時は全て廃材を使ったが、「廃材は隙間ができるので、今は製材も使います」と恵介さん。まずはやってみてより良い方法を見つけている

空き家を自分たちで改装して住宅に。当時は全て廃材を使ったが、「廃材は隙間ができるので、今は製材も使います」と恵介さん。まずはやってみてより良い方法を見つけている


青竹の巻縁(まきぶち)が施された籠。6㍍の竹から巻縁の材料を作って編む作業は特に大変だそうだが、「見た目がきれいだから続けています」とれみさん

青竹の巻縁(まきぶち)が施された籠。6㍍の竹から巻縁の材料を作って編む作業は特に大変だそうだが、「見た目がきれいだから続けています」とれみさん


自家製の肥料で育てる野菜。「農作業は楽しく、癒やされます。畑は、私が一番生き生きする場所です」とれみさん

自家製の肥料で育てる野菜。「農作業は楽しく、癒やされます。畑は、私が一番生き生きする場所です」とれみさん




◎プー民族
 
高知オーガニックマーケットに不定期で出店
商品の購入や出店情報などは、
Instagram/@pu_minzoku

◎青竹細工 安澤れみ
取扱店/ セブンデイズホテルプラス(高知市)など
※商品は、基本受注生産
最新情報などは、
Instagram/@anzawaremi

香美市香北町口西川
soramushi53@yahoo.co.jp
※注文や問い合わせは、Instagramかメールから

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