2023.06.05 08:38
食の安全基盤を支えたい 県衛生環境研究所主任研究員 橘亮介さん(33)高知市―ただ今修業中
「研究はやりがいがある。ずっとここで働き続けたいくらい」と笑う橘亮介さん(高知市丸ノ内2丁目の県衛生環境研究所)
「これがコロニーと呼ばれる細菌の塊ですね」
残留農薬、大気の状態、新型コロナウイルス…。県民の生活や環境に関わるさまざまな調査と研究を行う県衛生環境研究所で、食中毒の検査を担当する。事案が発生すると、各保健所から届く患者の便や、調理器具を拭き取った綿棒に残った菌を調べるのが仕事だ。
サルモネラ菌や病原性大腸菌など、ターゲットに合わせた複数の培地を使い、どのシャーレで増殖したか観察する。ガスを発生するか、糖を分解しているか―。原因菌を絞り込み、1週間ほどかけて特定する。
「何も分からないところから最終的に一つの答えにたどり着くのは気持ちがいい。県民の食の安全の一端を担えるのがやりがいですね」。白衣姿で照れくさそうに笑った。
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兵庫県明石市出身。小学6年の時、自己免疫疾患だった母親が、服用していたステロイド薬の副作用で入院した。「病気を治すために飲んでいるのに。体の中でどうなってるのか」。疑問を持つと同時に、薬への興味が湧いた。
神戸学院大学薬学部に進学して薬剤師の資格を取った。しかし、実習で体験した調剤薬局の仕事は魅力的に思えなかった。就職活動を迎えた頃、高知市出身の交際相手のひと言が転機となった。
「一緒に高知に来ん?」
既に製薬会社から内定を得ていたが、もともと「消去法」で選んだ営業職。高知での就職先を調べるうち、「いろんな人の生活に関わる仕事ができそう」と保健衛生の行政職に関心を持ち、選択を一転させた。
2014年に県庁入り。幡多福祉保健所や本庁の麻薬取締員を経て19年から同研究所に異動した。コロナ禍の当初は担当外のPCR検査に休みなく駆り出され、「ただただ疲弊する毎日」も経験した。
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好きな言葉
対象は、食中毒の原因となる大腸菌の一種「エシェリキア・アルバーティー」。県内では人への感染事例はないが、他県では20年ほど前から集団感染が確認されている。
県内の食肉処理場に搬入された豚やニワトリ、牛の便や食肉に菌がいないか調査を進めている。迅速、正確な原因の特定は県民への注意喚起や再発防止につながる。「いつ県内で発生が疑われてもいいように」と、本年度中に高精度な検査方法を確立させたいと意気込む。
コロナ禍で研究が止まるもどかしさもあったが、5類移行もあり職場にもようやく日常が戻ってきた。「食中毒が完全になくなるのは難しい。だからこそ知識や技術を高め、特定できる菌の幅を広げたい。それが県民の生活安全の基盤になる」
研究員としての自負をのぞかせた。
写真・加治屋隆文
文 ・山崎 友裕