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2023.05.29 08:38

思い出つなぐ仕事を 洋裁師 山本哲也さん(36)高知市―ただ今修業中

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「服をたんすの肥やしにせず、形を変えながら使って」と話す山本哲也さん(高知市一宮南町2丁目)

「服をたんすの肥やしにせず、形を変えながら使って」と話す山本哲也さん(高知市一宮南町2丁目)

 鳥や花の上品な和柄のドレスに、すいすい針を通す。取材に訪れた日は、留め袖を洋服に仕立て直す着物リメークの最中だった。

 まず留め袖をほどき、布の状態に。裁断や仮縫い、試着などを経て、依頼主が望むデザインに変えていく。将来、サイズ直しが簡単にできるように縫い代を広くしており、「長く着れんと、もったいないでしょ」。

 仕立てやお直しの店「万華(ばんか)」を開いて1年半。布と人と日々向き合っている。

 ◆

 物づくりがずっと好き。高知東工業高校、高知職業能力開発短期大学校、香川の四国職業能力開発大学校と進み、ICチップやロボットなどを研究した。

 電気関係の仕事を思い描いていたが、帰高後は就職難もあって、量販店などで働いた。

 「今のままでええんかな」と考え始めた頃。高知文化服装専門学校(高知市)で教壇に立つ姉が、「校長先生に一度会ってみる?」と電話をくれたことが、洋裁を学ぶ転機になった。

 服も、物づくりの一つ。同居していた大正生まれの祖母も仕立職人だった。「じゃあ僕がやってもええ」。抵抗なく、26歳で入学を決めた。4年通って洋裁のイロハを習得。課題で古着の着物を初めて洋服にした時は「よみがえった」と感動した。

 その後、祖母が99歳で他界。祖母自身が昔仕立てて気に入っていた着物2枚を、納棺時に着させやすい「エンディングドレス」にリメークして見送った。

 「自己満足かもしれないですけど、ばあちゃんの思い出の服で送り出せて良かったなと」。大量生産でなく、思い出をつなぐ仕事。やりたいことが見えた気がした。

 着物を扱う店で勤めた後、2021年12月に同市内で開業。今年3月、自宅敷地に移った。

 現在の仕事の大半は、裾上げなどのお直しだが、「体に合う服がなくて困っちゅう」と話すお客さんらから個々の事情を聞き取り、洋服や衣装を仕立てることも。「試着して、一発でOKもらった時はたまらんです」

 アコーディオンカバーという初めての注文では、段ボールの模型を使って、依頼主と何度も打ち合わせ。傷つけないよう中にクッション材を入れ、重さにも気を配って完成させた。

 愛用は祖母のミシン。「自分の道具ばあ直せんと」と、ミシン修理の老舗「安藤ミシン」(同市)で2年間学んだ。

 「できんもんはできんと断るのも仕事。お客さんにうそはつかれん」―。約80年続いた同店を畳む前に、店主が熟練の技術とともに伝えてくれた金言を、胸に刻んでいる。

 ◆

好きな言葉

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 注文はまだ波があり、交流サイト(SNS)などで地道に活動を発信。「地元にお直し屋さんがない」と郡部から調べて来る人もいて、「困っている人はおる」と実感する。

 ある時、祖母の友人が祖母が20年前に作ったワンピースのお直しに。その服を見て驚いた。

 「こんなきれいに作れるもんかえ?って。全部がばちーんと機械みたいに決まってた」。職人技を目の当たりにした。

 「経験値は足りない」と認めつつ、「高知の人の役に立つ店にしたい」ときっぱり。技を磨き、大切なものを残していく。

 写真・久保俊典
 文 ・徳澄裕子

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