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2023.05.25 08:00

【マイナの混乱】強引な普及策の副作用だ

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 行政のデジタル化を進めるため、政府が普及を図る「マイナンバーカード」を巡って、個人情報が漏えいするトラブルが相次いでいる。
 漏れた情報は、健康状態などプライバシーのなかでも極めて繊細な内容である。これまで政府は「セキュリティー対策は十分」と説明してきたが、制度の信頼性は大きく揺らいでいると言わざるを得ない。
 マイナカードは2016年の交付開始以来、長らく普及が低迷した。ひも付けされた個人情報が外部に漏れたり、利用されたりすることへの警戒感が原因とみて間違いあるまい。くすぶっていた懸念が、普及に伴って現実になった格好だ。
 トラブルは政府が利便性を強調する、さまざまな機能、サービスで発生した。コンビニで受け取れる証明書などのサービスでは別人の住民票のほか、抹消したはずの印鑑登録証明書が交付、発行される事例が相次いだ。点検のため一部でサービスを停止した。
 健康保険証と一体化した「マイナ保険証」は、医療保険を運営する健康保険組合などによる誤登録が21年10月以降、全国で約7300件確認された。口座情報のひも付けでも他人名義が誤って登録される事例が判明している。
 証明書の誤交付などはシステムの不具合、保険証や口座情報とのひも付けの誤りは登録作業の人為的なミスとみられる。ただ、多様なトラブルの実態が、政府の見込みの甘さを示しているのは確かだろう。特に、人為的なミスは起こるべくして起きたのではないか。
 新型コロナウイルス禍で行政のデジタル対応の遅れに直面した政府は、なりふり構わずマイナカードの普及を急いだ。多機能化で利便性の向上を図るにしても、行政の扱う個人情報、健康状態や口座情報は極めて慎重に扱うべき内容だった。
 それにもかかわらず、政府は普及キャンペーンに2兆円を超える予算を投じて普及を急がせた。そこに落とし穴があったといってよい。短期間に申請が集中すれば、それだけ健康保険組合や市町村にかかる負担が増すのは当然だろう。
 情報の安全性よりも、国民にカードが行き渡ることを優先させたとみられても仕方があるまい。強引な普及策の副作用でトラブルが誘発された側面は否めない。
 政府は24年秋に現在の健康保険証を廃止し、マイナ保険証への一体化を事実上強制する関連法改正案を今国会に提出。地方交付税やデジタル田園都市国家構想交付金の配分にマイナカードの普及状況を反映させるなど、自治体から「脅迫」と声が上がる手法をとってきた。本来は行政効率化の手段だったはずのマイナカードの普及が、どこか目的化していたように見える。
 一連のトラブルを受け、政府は関係機関に対して、総点検を求めている。それは当然としても、一方の施策の進め方は果たして適切だったと言えるのか。政府も自らの姿勢を総点検する必要があろう。

高知のニュース 社説

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