2023.05.14 08:29
昭和レトロな品々ずらり 「佐藤定紙文具店」時代超え 街と子ども見守り70年余―ちいきのおと(121)本町3丁目(安芸市)
商品がぎっしり並び、どこか懐かしい店構えの佐藤定紙文具店。商店街の一角で、静かに時を刻んでいる(写真はいずれも安芸市の同店)
安芸市の中心部、本町3丁目の本町商店街。「佐藤定紙文具店」には昭和レトロな品々がずらりと並び、まるで時が止まっているかのような錯覚に陥る。創業70年余り。いつも変わらぬたたずまいで、変わりゆく街や子どもたちを、そっと静かに見守っている。
ショーケースにはレトロなランドセルや塗り絵帳が並ぶ
静寂が店を覆う。
「もう、何でもスーパーで買える時代やき。開けちょっても静かなもん」。2代目店主、有沢孝子さん(79)が笑う。「まあ、古いもんがいっぱい残っちゅうし、自分が好きでいろいろ並べてるんです」。倉庫に眠るレトロ文具を定期的に入れ替えているという。
「巨人の星」のイラスト入り画板を見せる店主の有沢孝子さん。昭和30年代に販売していたそう
店のすぐ北側には安芸第一小学校。登校前に文具を買いに来る児童のため、長年午前7時に店を開けて登校する児童を見送った。
近くの鮮魚店勤務、寺尾徳人さん(40)は「学校行く前に急いでノートを買ったり、途中で学校を抜けて行ったり。夏休みにはゴムボールを買って友達と遊んで…」と回想。「今も店で使うペンやファイルを買いに行くけど、昔のまんま。子どもの頃を思い出すね」
もっとも最近、朝駆け込んでくる子どもはほとんどいない。それでも定休日の日曜祝日以外、午前7時半には店を開ける。閉店は午後7時ごろ。「うちが閉めたら真っ暗やき」と、目の前のバス停を使う高校生のために明かりをともしている。
有沢さんは「昔は店も人もいっぱい。阪神のキャンプが来た時らあは、本当に華やかやった。ファンの人たちがうちで色紙やペンを買ってくれてね」。対面にあったのは、プロ野球阪神タイガースがキャンプ時に定宿としていた「東陽館」。文具店にも、往年の選手らのサインが何枚も大切に保管されている。
近所に住んでいた島崎留美さん(55)=同市東浜=は「何時に掛布さんが帰ってくるかとか教えてくれたり、店で色紙を買ったら代わりにサインをもらってくれたりしてね」。島崎さんは今も、文房具を買いに店に行く。「娘がセンター試験で使う鉛筆は大事なものやき、一番書きやすいのを教えてもらって買いました」。文具を介して、人への思いやりが紡がれる。
商店街の人通りは少なくなった。それでも有沢さんの穏やかな表情は変わらない。「やめんとって、と買い物に来てくれるお客さんもおる。元気なうちは、開けちょきます」(安芸支局・宮内萌子)
《ちょっとチャット》
東山芽生さん(12)土佐中1年
家の周りはいろんなお店があって、小学校も海もすぐそこ。住みやすくていい所です。中学校には午前6時に家を出て、汽車と電車で通っています。遠くても、宿題や好きな物について友達と話す道中が楽しい。動物が好きやき、将来は獣医さんになりたいです。勉強を頑張って、テストでは上位を目指します。