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2023.04.17 08:45

自身で体験 魅力発信 県立弓道場職員 岡井沙智子さん(42)高知市―ただ今修業中

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「弓道の魅力を広めたい」と話す岡井沙智子さん(高知市高そねの県立弓道場)

「弓道の魅力を広めたい」と話す岡井沙智子さん(高知市高そねの県立弓道場)

 「スポーツ全般が苦手。何もないところで転んだりしちゃうんです」

 県立弓道場(高知市高そね)の朝。静かな時間の流れを感じながら、開場の準備をいそいそと進める。射場の引き戸を開け、的の前の芝生へ。「伸びてますねー」。同僚とともに、矢の軌道を妨げそうなほどの草を手で引き抜いていく。

 運動音痴を自認する。それなのに県スポーツ振興財団職員。弓を放ちに利用者がやってきた。「おはようございます」。朗らかな声が響く。矢が的を射る小気味いい音も響く。毎朝、毎朝、自身のスポーツへの扉が少しずつ開いていく。

 ◆

 高知市出身。昨年から、同財団が指定管理する弓道場の事務や管理を担当している。「神聖な場所ですし、射に集中して楽しい時間を過ごしてもらうためにも環境づくりが大事です」。気持ちを込めて業務に当たる。

 ただ、運動への苦手意識は、ずっと消えていない。小学生の時、親の勧めでスイミングスクールに通ったが、「練習が嫌で…。100メートル泳げたところで、頼み込んでやめました」。中学時代もハードな練習に耐えかね、1年で水泳部を退部した苦い記憶が残る。高校時代の部活は英会話クラブだった。

 大学卒業後、関西で診療所の受付、発達障害のある子どもの学習支援といった職を経験。28歳で帰郷後、ホテルのフロントなどを経て、2020年に同財団が募集していた春野体育館トレーニング室の事務スタッフになった。運動はまだまだ身近な存在ではなかった。当時、祖母の在宅介護をしていたたため、午後からの勤務が好都合だったからだった。2年勤めた後、今度は自宅から近いという理由から弓道場で働くようになった。

 ◆

 弓の引き方さえ知らなかった。ただ、弓を構え、狙いを定める真剣な表情、凜(りん)とした立ち居振る舞いを見ていると、なんだか興味が湧いてきた。弓道教室で指導する高段者から、「一緒にやろう」と誘われた。でも、やっぱり…。「私、運動が本当にだめなんです。皆ができることができなくて」

 そんなためらいの言葉を、その高段者は一笑に付した。「弓道は性別も身長も年齢も関係ない。誰でも始められて、同じ舞台に立てる。上達に終わりもない。一生続けられるよ」。スポーツへの扉を開く勇気をもらった。「私にもできるものがあるんだ」と。

 今年から参加している入門者向け教室。初めて弓を引いた。腕や脚がぷるぷる震えた。的のわらはわずか数十センチ先。矢がぼすっと刺さった。「あっ、できた!」と心が弾んだ。細かな所作や的を射抜く技術など、学ぶことはたくさんある。扉はまだ開き始めたばかり。「自分の弓の道を探してみたい」。自分に言い聞かすように話す。

好きな言葉

好きな言葉

 「まだ弓道は敷居が高いイメージがあるんです」。競技の普及も大切な仕事で、「弓道場は今年で10周年。多くの人にこれからも足を運んでもらえるよう、魅力を発信していきたい」と力を込める。そして、こう呼びかける。

 「スポーツに自信がなくても大丈夫。人生のおともにぜひ」

 写真・河本真澄
 文 ・馬場隼

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