2023.04.10 08:38
シェフに選ばれる野菜を 農家 中村守貴さん(27)安芸市―ただ今修業中
「いっぱい採れた時がうれしい」とナスを収穫する中村守貴さん(安芸市土居)
「ちっちゃいがも、これから大きくなると思うとかわいい」
目を細め、顔の汗をぬぐう。昨年8月、17アールのハウスで栽培を始めたばかり。幼子を見守る保護者のように、ナスの成長に胸を躍らせている。
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安芸市土居出身。幼い頃から祖母の畑仕事に付いていき、土で遊んだり、芋掘りを手伝ったりするのが好きだった。安芸高校を卒業し、「机に向かうより体を動かす仕事をしたい」と、地元の林業会社に就職した。
農業に目覚めるきっかけは4年前。結婚を機に引っ越した家にあった小さな畑に「興味本位で」ジャガイモやキュウリを植えた。土にまみれていた幼少期の楽しさがよみがえってきた。
半年ほどたったころ、「もっといろんな野菜を作ってみたい」と両親が持っていた約30アールの畑を借り、ニンニク、タマネギ、スナップエンドウなどを育て始めた。月に数回ほど地元の産直市に野菜を出すようになり、売り上げが入った。「買ってくれる人がおるがや。下手なもんは作れん」。栽培への意欲が、より強くなった。
徐々に面積を増やし、季節ごとにさまざまな野菜を育てるように。仕事終わりの夕方と休日はいつも畑で過ごした。土いじりにのめり込むにつれて、ある思いが膨らんだ。
「農業一本でやっていきたい」
畑の近くには、15年ほど前まで両親が使っていたハウスの骨組みが残っていた。義父、義兄がナス農家という環境も背中を押した。ナスを中心に、露地野菜も育てる少量多品種の農家を目指そう―。そう決心した。
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1年間は仕事を続け、休日に義兄のハウスで基礎を学んだ。ジャングル状態になっていたハウスは重機を借りて自分で木を切り、土を起こした。昨年5月に退職し、8月に苗を植えた。
成長すると、ごわごわの実や曲がった実も交じってしまっていた。大失敗もやらかした。病気になった木を「切ってしまうのはもったいない」とすぐに切らなかったため、はさみを介して周辺に広がり、何本もの木を枯らしてしまったのだ。
「自分はまだナスと会話できてない」。目が覚めた。「もっと水がいるのか、肥料が足りてないのか。バシッと分かるようにならんと」。今は毎日、木を一本一本じっくりと観察し、温度や湿度、水の量などを調整する。「ナスが採れんかったらヤバいって不安になる前に、どうやったらうまくいくかを考える。その時間が楽しい」
好きな言葉
「レストランのシェフに、自分の作った野菜を使いたいと言われる農家になる。それが目標」。ゆくゆくはハウスの面積も広げ、海外原産のしま模様の珍しいナスを作ろうとも考えている。「やれるばあ、やってみます」。前を向いて笑った。
写真・佐藤邦昭
文 ・宮内萌子