2023.04.08 08:00
【元次官人事介入】天下り規制の趣旨どこへ
元国交省事務次官の本田勝氏が、ビル管理などを手がける「空港施設」に対して、同省出身の山口勝弘副社長を社長にするよう要求していたことが分かった。
山口氏も同社の取締役時代、自らを副社長にするよう要求していた。山口氏は報道を受けて同社を辞職した。責任を取ったとみられる。
本田氏は「国交省の有力OBの名代」として来社し、要求通りにすれば「OBとしてサポートする」と、見返りがあるような趣旨の発言をしている。山口氏は「省の意向」としてポストを求め、「(会社側の)協力の証しになる」と述べた。
2人とも「威圧的な言動をしたつもりはない」などと釈明する。しかし、同社は羽田空港などのビル運営を手がけ、業務の一部で国交省の許認可を受けている。同省の事務方トップまで務めた人物がそのような発言をすれば、会社側に圧力がかかるのは当たり前だ。
同社は1970年の設立以来、現社長になるまで国交省OBが社長を歴任しており、その経緯が元次官の念頭にあったのだろう。
だが東証プライム上場企業でもある同社は、株主の評価に耐えうる企業統治が求められている。不透明な介入を受け入れられるはずがない。民間会社を私物のように捉える元次官の言動はあまりに非常識だ。
元次官は介入前、他の事務次官経験者と同社の人事について話をしている。介入も問題だが、それ以上に見落とせないのは、天下り先の確保へ、水面下での調整作業が綿々と続いていることだ。
天下りは、防衛施設庁による官製談合事件を受けて2007年成立の改正国家公務員法で厳格化された。官民癒着の温床になりやすく、それによる不公平な行政運営や談合などの不正行為を防ぐためだった。
この時、現役職員のあっせんや働きかけは禁止されたが、17年には文部科学省で、OBを調整役に組織ぐるみで天下りをあっせんしていた実態が判明。40人以上が処分され、法の抜け道をつくような手口に厳しい目が向けられた。
にもかかわらず、幹部官僚らは退官後、期間を置いた上でポストのやりとりや調整を続けており、その実態が改めて浮き彫りになった。
現役職員は関わっていないとされ、その点では違法性を問えない。しかし、天下り規制の主眼にあった官民癒着やなれ合いの構造はそのまま残っているということだ。
斉藤鉄夫国交相は「省が関与していると誤解を招きかねない」とし、何らかの対応をとる方針だが、国交省に限った問題ではあるまい。天下り規制の趣旨を再確認し、官僚側は自ら律する姿勢が問われている。