2023.04.03 08:35
誰かのための仕事を 高知海上保安部 航海士補 紺野有希さん(21)高知市―ただ今修業中
ウインチを操作していかりを巻き上げる紺野有希さん(高知港に停泊中の巡視船「とさ」)
仙台市出身。母子家庭で、幼いころは児童館で母の帰りを待つことも多かった。児童館では、ジュニアリーダーと呼ばれる中高生のボランティアが遊び相手になってくれた。
「恩返しがしたい」。自身も中学2年から5年間ジュニアリーダーを務め、声が掛かれば子ども会でイベントを開催するなど精力的に活動した。「自分のやっていることが誰かのためになっていると実感するとモチベーションが上がる」と感じ、「誰かのためになる仕事がしたい」と思うようになった。
進路で迷っていた高校生の時、人気映画「海猿」が好きだった母に海上保安官を勧められた。調べてみると、警察や消防よりはるかに少ない人数で広い海を守っていると知り、「自分もその一人になりたい」。海上保安学校(京都府)で1年間学び、昨春高知へ。巡視船「とさ」の航海科に配属された。
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県内海保の船で唯一、潜水士が所属する「とさ」は多くの救難出動を任される。「私は潜水士ではないので、人助けという意味ではすごく間接的な立場にいます」。それでも、潜水士が人命救助をするためには、航海士の仕事が欠かせない。
乗組員約30人の「とさ」(全長91メートル)には、航海科職員が約10人。現在の階級である「航海士補」は、操船、見張り、船体整備、運航計画の立案といった船の運航に関する業務を担う航海士の「見習的ポジション」だ。潮風でさびた船体の手入れはもちろん、航海士の指揮に従って操船も担う。
「航海士補として求められるレベルの技術を着実につけることが、人助けの第一歩」と感じているという。
「レピーター」(羅針盤)「操舵(そうだ)」「レーダー」…。機器の使い方を学び、聞き慣れない単語でやりとりする先輩たちの無線に耳を澄ませる。「一番下っ端はやることが多いんです」。1カ月の半分は船中での共同生活。ごみの片付けや食事の準備、必要な備品の補充など雑務を幅広く担う。
昨夏は「普通ならできることすらできず、指導されるばかりの毎日」だったという。「自分には向いていないのではないか」と思い悩んでいた。
そんな時、先輩に「7年目の自分でも怒られるんだから、1年目が怒られるのは当然」と言われ、気持ちが楽になった。「指導されるということは、私の仕事を見てくれているということ」。前向きな気持ちに変わっていったという。
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好きな言葉
海上保安官となった今。警報が鳴ると、まず自分に「冷静になろう」と言い聞かせる。高知でもいずれ南海トラフ地震が起きる。「被災者だからこそ寄り添える気持ちがあると思う」
初めての高知で慣れないことの連続の毎日。「まだまだできないことばかり。それでも、誰かのための仕事をしていると思えるように、まずは目の前の運航技術の向上から頑張ります」
写真・山下正晃
文・人見彩織