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2023.01.23 08:00

【「処理水」放出へ】理解はまだ進んでいない

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 東京電力の福島第1原発でたまり続ける「処理水」に関して、政府は関係閣僚会議で今年の「春から夏ごろ」に海洋放出を始める方針を確認した。
 廃炉に向けて避けられない対応とはいえ、事故から12年近くを経て新たな風評被害を生み出す懸念があり、漁業関係者らの理解も進んだとは言いがたい。政府と東電には適切な情報開示はもとより、広く理解を得るための真摯(しんし)な取り組みが求められる。
 2011年3月に過酷事故を起こした第1原発では、溶け落ちた核燃料(デブリ)を冷やす注水のほか、建屋に流れ込む地下水や雨水が放射性物質に触れて汚染水が発生している。当初より発生量は減ったが、それでも1日当たり約100トンも増え続けている。
 汚染水は多核種除去設備(ALPS)で放射性物質を浄化するが、トリチウムは除去できない。原発敷地内のタンクで保管する処理水はすでに130万トンを超え、東電は満杯に近いとする。政府は21年4月に海洋放出処分を正式に決定。今回はその時期を改めて明示した格好だ。
 処理水は、トリチウムの濃度を国の基準の40分の1未満まで薄め、海底トンネルを通じて1キロ沖から放出する計画。東電は昨年8月に放出設備の工事を始めていた。
 いつまでもたまった処理水を放置はできないとしても、経緯を振り返れば「スケジュールありき」の印象は拭えない。政府と東電は15年、地元漁業者と「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」と約束していた。だが、国内外にはいまも懸念は根強い。
 全国漁業協同組合連合会は海洋放出の方針決定後も、一貫して反対の姿勢を崩していない。東電の小早川智明社長も「まだ理解がしっかりと進んでいる状況にはない」と認めた通りだ。
 この間、放出の影響を受ける漁業者を支援する500億円の基金や賠償基準を設けてはいる。ただ、どこまで理解を得る取り組みをしてきたのかには疑問が残る。
 風評被害対策では消費者の理解も欠かせないが、これまでのところ具体的な取り組みは見えてこない。科学的な「安全性」の重要さはいうまでもないが、「安心」につながらなければ風評被害の懸念は払拭できまい。広く理解を得るための前提となる、信頼感が醸成できていないのではないか。
 政府は昨年末、処理水問題を横目に、原発の運転期間延長や次世代型原発への建て替えを盛り込んだ基本方針を決定。事故後「国民的議論」で導いた原発依存低減から原発回帰へ方針転換した。反対意見を置き去りにするような姿勢では、政府の取り組みに理解が広がるはずはない。説明不足は明らかだ。
 ましてや処理水の対応は放出で一件落着とはいかない。今後、数十年引きずる問題の始まりである。政府と東電は放出の終了まで、真摯な姿勢で責任を全うする必要がある。

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