2022.08.30 08:00
【NPT決裂】核の脅威排除へ立て直せ
核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、全会一致でつくる最終文書を採択できずに閉幕した。前回2015年に続く決裂となった。ロシア1カ国が反対した。核脅威の排除を掲げるNPTは形骸化が進む。今回も役割を果たせず、存在意義が揺らいでしまった。
ウクライナ情勢を念頭に、核脅威は冷戦期以降で最も高まっている。最終文書案がこう指摘する状況だ。しかしロシアは、ウクライナ南部ザポロジエ原発の管理をウクライナに戻すよう促す記述などに異議を唱え、決裂が決定的になった。
最終案に至るまでの改定で、表現は後退を重ねた。ロシアを名指しした表現は削除している。また、核保有国に対して核の先制不使用政策を求める記述なども削除しながら、合意の形成を目指した。それにもかかわらず採択できなかったことで、核軍縮を求める非保有国の反発や落胆は大きい。
合意間近と思わせながら、最終場面で反対に転じたロシアは批判されて当然だ。ただ、前回がまとまらなかったのは米英が反対したためだった。米英仏中ロにのみ核保有を認めるNPTは不平等条約と言われる。保有国がエゴを振りかざせば、NPT体制は機能しなくなることを今回も見せつけた。
非保有国には、保有国が過去の会合での約束を満足に果たしていないことへの根強い不信感がある。これらが核軍縮への明確な道筋の設定を望む背景となっている。
こうしたいら立ちは非保有国を動かし、核兵器禁止条約につながった。この条約が発効して初めてのNPT会議だけに成果が求められたはずだが、2回連続の不採択となった。妥協を重ねてでも成果へとつなげたい思いは否定され、かえって意識の分断が鮮明になった。
核不拡散へ向けた保有国の具体的取り組みが停滞する一方、核開発競争は激しさを増している。低出力の小型核や核兵器の近代化など質的な核軍拡に歯止めはかからない。米ロの核弾頭数は約9割を占め、中国は質量両面で核戦力を強化する。
NPTは核廃絶への主導的な役割を果たせるのか、極めて厳しい視線が向けられる。NPT体制は危機に直面している。保有国が自国の優位性を揺るがせないだけの対応にとどまれば溝はさらに深まる。
「核なき世界」実現を理想に掲げる岸田文雄首相は、日本の首相として初めて会議に参加した。しかし演説では核禁止条約には触れず、批判の声が上がった。
首相は保有国と非保有国の「橋渡し役」に意欲を示すが、米国の「核の傘」の下でどのような構想で臨むのか。核廃絶への機運を高めるための首相の決意が響いてこないのが物足りない。