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2022.07.02 08:00

【NATO新概念】対決より衝突回避優先で

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 ロシアの位置付けが「戦略的パートナー」から「最大かつ直接の脅威」へと決定的に変化したのは、ウクライナへの軍事侵攻の帰結だ。冷戦後の安全保障環境は激変した。欧米の安保政策は新たな局面へと踏み出したことになる。
 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が採択した新たな「戦略概念」は、ロシアへの警戒感を打ち出した。今後約10年間の指針であり、対決色が鮮明になった。
 宣言は、ロシアの脅威に対抗するためNATOの長期的な防衛力を強化するとし、即戦力のある部隊の東欧への追加派遣を盛り込んだ。危機に即応する部隊を大幅増員することにも各国首脳は合意した。
 また首脳会議は、ロシアの侵攻で急浮上した北欧フィンランドとスウェーデンの加盟を認めることで合意した。反対していたトルコが容認に転じた。トルコはテロ組織とみなすクルド人勢力への支援を北欧2カ国が撤回することを条件に突き付け、2国が譲歩したことを受けた。
 フィンランドはロシアとの国境を有する。ロシアは両国にNATOの軍事施設が置かれれば相応の対抗措置を取ると警告する。さらなる主権侵害が許されないのは当然で、解決策は対話で探ることが基本だ。
 2国は侵攻後にNATO加盟支持が高まり、軍事的中立政策から転換した。非同盟の立場から軍縮や非核化、人権問題に取り組んできただけに、国際情勢への関わり方や影響力の変化も気になる。
 新概念は、ロシア対処とともに、中国への懸念にも初めて言及している。中国が「体制上の挑戦」を欧米に突き付けていると警戒感を示した。中国が東・南シナ海で軍事活動を活発化させていることは、欧州の安全保障にも脅威となり得ると見るNATOの姿勢がうかがえる。
 インド太平洋地域はNATOにとって重要と指摘し、日本など同地域のパートナー国との協力を強化する姿勢を明確にした。
 さらに、軍事力を強化する中ロの連携にも警戒感を強め、専制主義との対決姿勢をにじませた。中ロの戦略的協力関係の深化はNATO側の価値と利益に反すると位置付けた。
 欧州にも中国の覇権主義的な行動に批判がある一方、距離的に遠いことから脅威の受け止めに濃淡があるとされる。このため中国を最大の競争相手と位置付け、中国包囲網を形成したい米国の思惑が反映されたとする見方も出ている。
 岸田文雄首相は日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席し、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分だと強調した。従来の日米同盟に加え、NATOとの連携を築いていく考えを示した。
 日本にとっても安保環境の厳しさが増す中、防衛力を高めるためにNATOと連携して、重層的な対応をとることは意義があるだろう。ただ、軍事的側面への傾倒が強まりすぎると、かえって地域の緊張を高めかねない。衝突回避へ抑制的な姿勢を失わないことが求められる。

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