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2022.04.24 08:41

牧野標本に平和の願い 博士生誕160年「植物愛せば争いない」15Kカメラで魅力再発見

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1億5千万画素のデジタルカメラを使って牧野博士の植物標本を撮影する菅原一剛さん (2021年11月、県立牧野植物園)

1億5千万画素のデジタルカメラを使って牧野博士の植物標本を撮影する菅原一剛さん (2021年11月、県立牧野植物園)

 きょう4月24日は、牧野富太郎博士の誕生日です。桜散って新緑が輝き始める。そんな爽やかで美しい季節に、世界的植物学者は高岡郡佐川町に生まれました。2022年は生誕160年となります。今日の高知新聞は、牧野博士が採取したセンダイヨシノの植物標本で本紙を包み込む「ラッピング」を施しました。この桜は1939(昭和14)年、東京の博士の自宅庭で採取されたものです。博士77歳。この年の5月には日本とソ連・モンゴル軍が衝突したノモンハン事件が起こります。太平洋戦争も間近です。「植物を愛すれば、世界中から争いがなくなるでしょう」--口癖のように博士は語っていました。博士生誕160年を祝い、世界平和の願いを込めた2022年4月24日の高知新聞をお届けします。 

 昨年11月のことでした。高知市五台山の県立牧野植物園の一室に、収蔵庫から取り出された41点の植物標本が並びました。牧野富太郎博士が採取した植物の標本です。一般には公開されていない貴重な史料です。

 写真家の菅原一剛さんによる標本の撮影が進んでいました。強い光のフラッシュが瞬き、デジタルカメラのシャッター音が響きます。使われているのは、デンマークの会社が開発した世界最高水準の1億5千万画素(15K)を誇る特別なデジタルカメラです。およそ600万円もするそうです。

 撮影された画像は、すぐにパソコンの画面に映し出されました。

 「おお…」「すごいね、これは」「立体的に見える」「まだ植物が生きているよう」

 同園の研究員からも、その高精細な画像に感嘆の声が上がりました。

牧野博士が採取したセンダイヨシノの植物標本(1939年)の実物。それぞれのパーツがテープで固定されている。ラッピングに使われた作品ではデジタル処理でテープなどを消した

牧野博士が採取したセンダイヨシノの植物標本(1939年)の実物。それぞれのパーツがテープで固定されている。ラッピングに使われた作品ではデジタル処理でテープなどを消した

 最も古いものは1889(明治22)年、そして戦前戦後にかけて採取された植物を標本にしたものです。100年を優に超えるものや、それに近い歳月を経ているにもかかわらず、牧野博士の植物標本は今も美しく保たれています。そして15Kのデジタルカメラは植物の形状を微細な部分まで捉え、私たちに鮮明な画像として見せてくれるのです。撮影をしている菅原さんも「これはすごいね」と驚きながら、撮影現場は静かな興奮状態に包まれました。

 標本は植物研究の基礎となる史料です。植物の分類・名前、誰がいつ、どこで採取したのか。それらが明記された「実物」の証拠なのです。牧野博士は94年の生涯で、実に40万点の標本を収集しました。これら実物証拠を基に、1500種類に及ぶ植物に命名もしました。標本は植物分類学者にとって「命」そのものだと博士は言っています。

 菅原さんは若い頃に、桃井かおり、秋吉久美子、藤原紀香ら多数の俳優のポートレートも手掛けていました。それらは芸術的にも高く評価され、俳優自身からも称賛されてきました。今回、菅原さんはまるで「ポートレート」のように植物標本を撮影したと言います。

 「写真館なんかでは、多方向から強い光を当てて人物を撮影しますよね。そうすることで立体的に見えるんです。植物標本は完全な平面ではないですよね。そのわずかに立体的なものに、斜めから強い光をバーンと当てて撮影する。植物のポートレートなんです。ただ植物標本をデジタルカメラで複写しているわけではないんです」

 この菅原さんの写真作品を植物研究者たちは、どんなふうに見ているのでしょう。薬学博士で牧野植物園の川原信夫園長は言います。

 「すごいですね。植物標本に立体感がある。非常に感銘を受けました。高性能なデジタルカメラという現代の技術によって、新たな発見があり、そして芸術にまで高まっている。エキサイティングなものを感じました」

 植物分類学者で同園の藤川和美研究員は、ラッピングに使われたセンダイヨシノの標本を、こんなふうに見ています。

 「牧野博士が自宅庭で採取した桜なのですが、なんかこう無邪気に標本にしたように思えるんです。ああ今年も桜が咲いたなあ、と。でも標本のタイミングとしてはどんぴしゃで、咲いている花と咲き始めの花がちゃんとあるんですね。もちろん標本は学術史料ではあるけれども、こんなふうに、多くの人にもっと見られることで社会的な価値が増す。今回の試みはそのチャンスだと思いました」(メディア企画部・竹内一)

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