2022.03.09 08:00
【核施設への攻撃】大惨事を想像できないか
原子炉が被災すれば放射性物質の被害はロシアにも及ぶ。このため原子炉は攻撃対象にしていないとの見方があるとはいえ、戦時下では偶発的な事態は排除できない。そもそも、取水装置や配管の損傷でも重大事故につながりかねない。
侵攻直後にはチェルノブイリ原発を、続けて南部ザポロジエ原発を制圧した。東部ハリコフで核物質を扱う研究施設を砲撃し、さらに別の原発へ進軍する恐れが指摘される。
プーチン大統領は核兵器使用の可能性もほのめかす。核危機の緊張を高めて国際社会を威嚇しても威信は高まらず、ロシアへの非難と制裁が強まるだけだ。全面停戦に応じ、対話で事態打開を図るよう求める。
プーチン氏は、ウクライナの核武装の可能性を一方的に主張している。ウクライナは否定し、国際原子力機関(IAEA)も核武装などの動きはとらえていないとする。疑念はIAEAの管理体制強化に委ねれば解明できたはずだ。
ロシアは原発への攻撃を禁じる議定書を批准しているが、顧みなかった。核施設を制圧することで、核開発の証拠を捏造(ねつぞう)することも想定される。それらを示しても、自らの行動が信頼性を損なっていることを自覚する必要がある。
攻撃は都市部の民間地域にも増え、民間人の死傷者は増え続けている。周辺国への避難は200万人を超えた。戦闘を受けて広範囲で電気や水道の供給停止が伝えられる。
ウクライナでは国内電力の半分ほどを原子力で賄う。原発の制圧で電力不足が強まると市民生活のさらなる困窮が懸念される。戦下での混乱はさらに深まりかねない。
一方、ロシア国内は情報をコントロールしようとする動きが強まっている。プーチン氏は軍に関する「偽情報」の拡散に対し、最長で懲役15年を科す法案に署名した。
当局はフェイスブックやツイッター、欧米メディアへのアクセスを遮断した。記者の身に危険が及ぶ可能性があるとしてロシアでの活動を停止し、国外からの報道に切り替える動きがでている。
国営メディアは世論を誘導し、国民を信頼できる情報から遠ざけることで、反戦世論の高まりを何としてでも抑え込もうとやっきになっている。ロシア国内には、ウクライナのロシア系住民を救済する「軍事作戦」との位置付けを信じ、支持する意見も少なくないと伝えられる。
反戦の叫びもある。しかし、当局は無許可での集会は阻止した上で責任を追及する姿勢で、異論封殺へ弾圧を強めている。人権団体によると、反戦活動でこれまでに1万3千人を超える人々が拘束された。
国際社会の制裁で経済活動の弱体化は必至で、市民生活への影響が強まることは避けられない。無謀な侵攻が広げる傷を意識することだ。