2022.02.15 08:00
【アサリ偽装】食への信頼がまた揺らぐ
漁獲量を大幅に上回る量が流通しており悪質さが際立つ。実態を把握して、不正を防ぐ仕組みの構築を急ぐ必要がある。
国内のアサリ漁獲量は、沿岸開発や乱獲などで年々減少している。かつては有力産地だった熊本も、近年は不漁が続いているという。
農林水産省の調査によると、昨年末までの3カ月に販売された生鮮アサリのうち、8割に当たる2485トンが熊本産の表示だった。しかし、その前年の漁獲量は21トンだったという。年により違いがあるにしても、あまりの格差に驚く。
サンプル調査では、大半に外国産の混入が疑われる状況を示した。農水省は中国や韓国産が偽装されて出回っていたとみている。
食品表示の制度では、海外が原産の水産物でも日本の海で育てる期間の方が長ければ国産と記載する。これを悪用し、輸入物を短期間漁場に入れて育成するだけで熊本産と名乗る手口が横行していたようだ。
消費者を引きつけるには海外産より国産とした方がいいということだろう。不正は長年の慣行だったとの指摘がある。20年以上続いていたとする証言も伝えられる。
さらに、山口県などに輸入されたアサリが熊本県に持ち込まれないまま、熊本産として出回っている事例があるようだ。こうした手法が主流とする見方さえある。徹底した調査で実態を解明して、信頼回復につなげていくしかない。
外国産アサリは通常、輸入業者から水産業者が買い付け、卸売業者などを介して小売店で販売される。流通段階では多くの事業者が関与し、中には伝票だけを通して利益を得る業者が介在する。このため産地の書き換えがどの段階で行われるのか判然としないという。
熊本県は生鮮アサリの出荷を2カ月停止して流通過程を調査する。熊本ブランド全体の信頼を揺るがせかねないと危機感は相当強い。
これまでにも外国産を熊本産と偽り摘発された事例があるが、根絶を目指して本格的に取り組む姿勢を示したことは重要だ。農水省も流通ルートや関係業者を調査し、偽装が確定した場合は食品表示法に基づき対処する方針を示した。
また熊本県は国に対し、食品の産地表示に関するルール変更や、漁獲から販売までのトレーサビリティー(生産流通履歴)を明確にする取り組みへの支援を要望した。こうしたことを通して産地偽装を防ぐ仕組みを構築する意向という。
産地や賞味期限など食品偽装は繰り返されてきた。誠実に取り組まなければ食の安心安全は高まらない。法令順守を怠ると産地や業者は大きな打撃を受けることになる。
産地や品種の偽装は高知県内でも過去に発覚している。県産品の信頼を高める取り組みを緩めることなく続けていきたい。