2022.02.11 08:00
【台湾の禁輸解除】日本産食品の販路拡大へ
台湾は21年の日本産食品の輸出先で4位と重要な位置を占める。日本が進める農林水産物や食品の輸出拡大に弾みとなる。
一部の都県を対象に輸入停止を継続する5カ国・地域の一角が緩和へと動いた。残る中国、韓国などの解除へ働き掛けを強めたい。
台湾は、福島など5県の酒類を除く全ての食品に課してきた一律の輸入停止措置を廃止する。ただ、キノコ類などは禁輸を続けるほか、5県以外でも放射性物質検査報告書や産地証明書の添付を義務付ける。
過去の住民投票で食品禁輸措置の継続が賛成多数となるなど、台湾の消費者には根強い不安があるようだ。蔡英文総統は日本産食品に対して国際基準より厳格な措置を取る方針を示し、判断への理解を求めている。日本側からも安心を提供する対応が欠かせない。
台湾が緩和に動いたのは、環太平洋連携協定(TPP)加盟への強い意欲からだ。加盟は全会一致で決まるため、中国が先に認められれば台湾の加盟は不可能になる。貿易自由化など高い水準のルールを受け入れる姿勢を見せることで、日本からの後押しを期待する。
一方、中国は日本産食品の最大の輸入国ではあるが、規制の解除に慎重だ。TPP加盟交渉の展開によっては態度を硬化させかねない。撤廃に向けた働き掛けには、政治的な思惑を先鋭化させないよう冷静な対応が求められる。
21年の日本の農林水産物・食品の輸出額は1兆2千億円を上回った。9年連続で過去最高を更新し、初めて1兆円の大台に乗せた。
インターネット販売や小売店向けなど新たな販路が伸びた。さらに、米国や欧州連合(EU)などの規制撤廃・緩和が寄与したことも一因に挙げられる。政府は海外市場の開拓を支援する考えだ。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の発効も追い風となるだろう。
規制の撤廃は被災地の復興支援につながる。事故で輸入を規制した国・地域は55から、停止のほか検査証明書の要求などを含め14に減った。進展には安心安全の取り組みと、それに基づく情報発信が不可欠だ。
そうした中、福島第1原発でたまり続ける処理水は海洋放出が計画されている。多核種除去設備(ALPS)でも取り除けない放射性物質トリチウムが含まれるため、地元の漁業者らは風評被害が出ると強く反発している。中ロ首脳は共同声明で、環境に影響を与えかねないと「深い憂慮」を表明した。
着手には地元の同意などが必要であり、強引な手法では理解は得られはしない。さらに周辺国の懸念と向き合わなければ、輸出拡大の動きを失速させかねない。科学的な安全性評価は当然で、信頼性や透明性を高める努力を重ねながら粘り強く訴えていく必要がある。