2021.10.26 08:00
【2021衆院選 多様性の尊重】生きやすい社会どう実現
象徴的な課題が「選択的夫婦別姓制度」だろう。婚姻時に同姓か別姓かを自由に選べる制度だ。
法制審議会が制度導入を答申して四半世紀たつが、自民党内の保守層の反対が根強く、国会で議論さえされない棚ざらしの状態が続く。
その間に、制度導入に賛成が反対を上回るようになった。共同通信が16、17日に実施した全国世論調査では賛成が74・5%に達している。
国民に理解が広がる一方で、自民党の対応はむしろ後退している。昨年12月の第5次男女共同参画基本計画案の策定時には、党内保守層の反発を受けて「選択的夫婦別姓」という文言まで削除された。
今回も、自民党は公約の原案から「夫婦の氏に関する具体的な制度のあり方についてさらなる検討を進める」との一文を削除している。
9党の党首討論では、来年の通常国会への関連法案提出に8党首が意欲を示したが、岸田文雄首相(自民党総裁)だけが「深めなければいけない点がたくさんある」と慎重姿勢だった。
法律で夫婦同姓を義務付けているのは先進国では日本だけだ。改姓しているのは96%が女性で、国連の委員会からも再三、「差別的な規定」と撤廃を要請されている。
立憲民主党など野党は同姓か別姓かの選択肢実現を公約に掲げ、自民との違いを際立たせる。
多様性の尊重に向け、性的少数者の人権に関する政策も注目される。
電通の全国調査では同性愛者ら性的少数者に該当する人は約9%に上るが、差別や偏見を恐れて「ありのままの自分」を隠す人も多い。
近年、当事者が声を上げて社会の理解を求める運動が活発になった。高知市など全国の自治体で、同性カップルを夫婦同等の関係と認める「パートナーシップ認定制度」の導入も広がる。
しかし、法的な婚姻関係でないため、相続が認められないなどの不利益は大きい。
自民党は公約に「理解増進に向けた議員立法の制定」を盛り込んだが、同趣旨の法案は党内保守層の反発で今年5月に見送ったばかりだ。
一方、立憲民主党や共産党は同性婚を認める法整備を打ち出した。
岸田首相は所信表明演説で「多様性が尊重される社会を目指す」と訴えたが、具体的な方向性を示しているとは言いがたい。
人権の観点から考えるべき課題である。女性蔑視、容姿侮辱、障害者へのいじめ…。旧態依然とした現実もある。東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会で不祥事が相次いだことは記憶に新しい。
差別や格差を解消し、社会に活力を生む政策として「多様性の尊重」にどう臨むのかが問われる。