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2007.09.03 08:00

『本城直季 おもちゃな高知』あなたも踊っちゃう?

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高知市城見町


 ごたん、ごとんと揺れる路面電車。つり輪の窓越し、古ぼけたビルの2階にダンス教室がちらりと見えた。ちょっと、あの映画みたい。
 
 優しげで、少年のような風ぼうの小松宏史さん(24)は、プロのダンサーになって3年になる。教室に通い始めた高校生のころ、よく相手の足を踏んだ。大抵は年上の女性。くるくると回って腕の中に倒れ込んできては、耳元で小さくささやかれた。「間違ってる」「音、外してるよ」。顔はにっこり笑ったまま。でも指先や背中から、怒りがじんじん伝わってくる。頭は真っ白になった。
 
 「今の、よかった」。うまく息が合い、そう言われるようになるのは、随分たってからのことだ。
 
 幼いころは剣道少年だった。テレビで水戸黄門を見て、親に習いたいとせがんだらしいが、本人はよく覚えていない。
 
 大工の父と看護師の母、2人の兄。4、5年生のころ、家族5人で晩ご飯を食べた後、映画「Shall We ダンス?」をテレビで見た。渡辺えり子がステップをどすどす踏み、竹中直人が腰をくねらせる。主役の役所広司のえんび服が格好良くて、「僕も、やってみたい」と思った。
 
 その後、学校で友達を誘ったりもしたのだが、相手にされず、ゆるゆると時間は流れ、高3の春、剣道部を引退するころ、図書室でダンス入門の本を見つけた。いつも推理小説や冒険ものを読みあさっていた小松さんが差し出す本に、司書の女性が目を留めた。「ダンスやりたいの? なら事務室のわたしの友達がやってるよ」
 
 小松さんはその足で学校事務室を訪ね、高知市の老舗「ダンススタジオ ユイ」を教わり、放課後から9時ごろまで通うようになった。ルンバやチャチャチャ、サンバ。音をつかむのが難しく、自分勝手なステップに陥ると、組んだ相手はすぐに全身で怒りを伝えてきた。気持ちを思い、息を合わせるこつは、徐々に、自然に覚えた。
 
 高校卒業後しばらくして教室の見習いに。毎月、東京のダンサーのもとへ1年半通い、一般常識や法律などの筆記と実技試験に合格し、プロになった。
 
 先生と呼ばれるようになった教室。初めて連れてきてくれた学校事務員さんはその日から生徒になった。「自分が教えるだなんて。お世話になってる分、いっぱい勉強して、恩返ししなきゃ」

       ◇
 
 この夏、小松さんは恋をした。高校の後輩で、ダンスはしていない人。星と街が見える高台で、人生初めての告白をした。「んー、教室には来てほしくない、かな…。恥ずかしいですから…」。困ったときのくせなのか、右手のひらを自分の頭にぽんと乗せて照れる。しどろもどろで答えてくれたことによれば、彼女は沈黙の後、うなずいて、「わたしでいいんだろうか」とつぶやいた、らしい。
 
 35周年を迎えた教室。シャイな小松先生、ユウ君ことスリムな石川先生(21)、窓際にはアンニュイな千津子先生が立っている。あなたもシャルウィーダンス?(天野弘幹)

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