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2021.07.05 08:00

【熱海土石流】教訓受け継ぎ警戒を

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 有数の温泉地として知られる静岡県熱海市で3日午前、大規模な土石流が発生した。100棟を超える建物が被害を受けたとみられ、多数の安否不明者が出ている。
 現場一帯はこれまでの大雨で地盤が緩んだ状態だ。二次災害への警戒を高めつつ、救助活動を迅速に進めたい。
 梅雨の末期に多い大雨で、最も懸念される事態が現実となってしまった。梅雨前線が停滞し、南から湿った空気が長時間にわたって流れ込んで雨雲が発達したとみられる。熱海市付近では強弱を繰り返しながら降り続け、雨量は7月の観測史上最大を記録していた。
 土石流は伊豆山で複数回発生し、多数の建物や自動車を河川沿いに巻き込みながら麓の伊豆山港まで達した。土石流の全長は2キロに及んだという。犠牲となった2人も港で見つかった。土石流の破壊力をまざまざと見せつけられた格好だ。
 静岡県によると、現場周辺は土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域に指定されていた。だが、熱海市は2日、避難に時間がかかる人に向けた「高齢者等避難」は発令したものの、「避難指示」への警戒レベル引き上げは見送っていた。
 雨のピークを越えると見込んだ対応だったという。最高レベルの「緊急安全確保」を出したのは土石流が発生した後だった。災害対策基本法の改正による新たな避難情報の運用は5月に始まったばかりだ。前例も少なく、難しい判断だったのは間違いあるまい。
 ただし、雨脚が弱まっても大量の水分を含んだ地盤の災害リスクはなかなか下がらない。住民の安全を最優先に考えるのであれば、空振りを恐れず避難指示に踏み切るという選択肢もあったのではないか。判断が適切だったのかどうか、今後の検証が必要だろう。
 土砂災害では、本県にも忘れてはならない重い教訓がある。60人という大きな犠牲を出した繁藤災害は1972年、梅雨のさなかだった7月5日に発生した。
 香美市土佐山田町繁藤にある追廻山(おいまわしやま)で早朝、最初の崩落が発生。救助に当たっていた消防団員や住民らを、幅140~170メートルにわたる大規模な山崩れがのみ込んだ。取材中の本紙記者も犠牲になった。
 遭難者を何とか救出したいという尊い使命感が二次災害につながり、本県の災害史に残る大惨事となった。痛恨の極みというほかない。
 熱海市の現場も水分を含んだ大量の土砂に阻まれ、救助作業の難航が予想される。人命救出が急がれるのは確かだが、安全の確保を最優先に作業を進めてほしい。
 繁藤災害から49年がたち、被災者や遺族は高齢化している。しかし、温暖化の影響もあり災害が多発するようになった今、その教訓はより重要さを増している。
 災害が懸念される時期はまだ続く。梅雨が明ければ、本格的な台風シーズンを迎える。教訓を受け継ぎ、警戒を緩めてはならない。

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