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2021.05.12 08:39

高知市の老舗バー「うすけぼ」閉店へ 柳町で43年...常連客ら惜しむ

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常連客との会話を楽しむ「うすけぼ」の佐藤美江さん(高知市追手筋1丁目=森本敦士撮影)


 老舗の灯がまた一つ―。高知市の柳町で43年にわたり営業してきたバー「うすけぼ」が15日で閉まる。ビルが老朽化する中、店主の佐藤美江さん(69)が営業許可の更新を断念した。カウンター越しに人生の喜怒哀楽を語り合ってきた常連客らが次々に店を訪れ、別れを惜しんでいる。

 うすけぼは1978年に美江さんの夫、故・憘一(きいち)さんが、追手筋1丁目のビル地下に開いた。憘一さんとは別の店の雇われマスターだったころに出会い、76年に結婚。開店1年後から夫婦で切り盛りしてきた。

 憘一さんは多趣味で気まま。営業中にふらりと店を出て、街で飲み歩くことも。そんな自由な人柄にひかれた客から、なぜか「えいちゃん」と呼ばれ、親しまれてきた。

 「なぜか私も、えいちゃんと呼んでいた」(美江さん)。そんな憘一さんは2000年に、55歳でパーキンソン病を発症する。徐々に病状が悪化していく中、美江さんは看病しつつ店に立った。

 「最後の5年は妄想がひどくて、お客さんに愚痴をこぼしたことも。『それはほんとのえいちゃんじゃない。絶対よくなるき』って皆に励まされた」

 15年3月、憘一さんは70歳で死去した。闘病中の12年には、常連客らが美江さんを励まそうと「うすけぼバンド」を結成。月1回のライブは昨年2月まで90回を数えた。

 バンドメンバーの松岡宏明さん(66)=高知市=は開店当初から店に通う。「そのころから、えいちゃんはすぐに店を出て行き、美江さんが守ってきた。このカウンターで僕の同級生たちはプロポーズしてきた」

 昨春から新型コロナウイルスの影響で売り上げが減っていた。ただ、直接の理由はビルの老朽化。雨漏りなどを自費で修理することが難しく、5年ごとの営業許可の更新が迫っていた。

 店には現在、アルバイト学生が2人おり、美江さんは必ず手作り弁当を渡している。4年働いてきた高知大大学院生の田辺里菜さん(23)は「お母さんのような存在で寂しい。でも、最後に就職を報告できてよかった」。

 閉店の話が街に広がると、常連のほか、歴代のバイトも続々来店。30年以上前にバイトしていたという三木良次さん(61)=南国市=は、妻と息子夫婦を連れてきた。

 美江さんと記念写真を撮り、花束を渡しているうち、感極まった表情に。「結婚したてのころ、仕事が忙しかったころ…。ここには僕の青春の全てが詰まっている」

 美江さんは、いつものようにカウンターでにこにこ。「えいちゃんとやりきった。後ろ髪がひかれることはない。お客さんに感謝しつつ、静かに幕を閉じます」(高井美咲)

※きいちさんの「き」は、りっしんべんに「喜」

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