2017.02.14 08:20
大流通を追って 消えないカツオ(7) 三陸沖発三大都市
一方で、漁師はここ20年以上、漁獲減を嘆く。新聞には近年「不漁」「危機」といった見出しが並ぶ。
それでも、県内の量販店には今日もカツオが並んでいる。
海上の生産者の感覚とは裏腹に、高知県民にとってカツオは、むしろ“消えない魚”ではないのか。
不漁なのに、なぜ消えないのか。消費地・高知を中心に陸のカツオを追った。
10月5日、宮城県気仙沼市。
夕暮れ時、気仙沼湾に面する飲食店街に足を運んだ。のれんをくぐったのは「あさひ鮨(ずし)」。村上力男さん(76)が、穏やかな口調でカツオへの思いを語ってくれた。
「今の時季のカツオはマグロよりおいしい、みんなそう言います」
例年9月に入って秋風が吹き始めるころ、カツオに脂が乗り始める。10、11月は脂の乗りが最高になる。
「東京で修業中、高級料理店に『気仙沼戻りカツオ入荷』と張り出してあった。それは誇りに思いましたね」
気仙沼の人々にとってカツオとはすなわち、秋の戻りカツオ。皮下に分厚い脂肪の層があり、「トロカツオ」とも呼ばれる。それ以外には食指が動かないようだ。
もっとも今秋は不漁に加えて小型魚の割合が高く、脂の乗ったカツオがほとんどみられないまま、漁期終了を迎えた。
カツオの「たたき」を、村上さんは「土佐造り」と呼ぶ。店のメニューにはなく、客の要望があればつくる。今年の提供は1回もなかったという。
「戻りカツオはシンプルに刺し身でおいしい。だから逆に(たたきなど)いろんな技術が育たないんです」と村上さんは話す。
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流通のプロの目に、カツオはどう映っているのだろう。気仙沼港で水揚げされた魚の出荷・小売りなどを行う「足利本店」の足利宗洋社長(46)の話はやはり、地元気仙沼と関東を意識した語りとなる。
「気仙沼の人は脂の乗ったカツオが好き。そして関東は上りカツオが一斉に出回る春には、さっぱりしたカツオ。秋には脂の乗った戻りカツオ。季節に合わせて、両方を味わうんです。高知の方は、さっぱりしたカツオが好みでしょう」
足利さんの会社はカツオの冷凍たたき・刺し身をネットで全国にも販売。当然、高知の業者とも競合する。
「でも、やっぱり高知のブランド力には勝てない。イメージ戦略が上手ですね。関東の人も『カツオは高知』と思っている。『生鮮カツオの水揚げ日本一は気仙沼』と言っても、反応が薄い…」
同社が気仙沼魚市場で買い付ける生鮮カツオの発送先は、東京・築地が約50%。次に名古屋、大阪。
売り先として常に意識するのは、これら三大都市圏の巨大市場。
「小規模な地方市場であれば、受け入れ能力を超えて『もういりません』と断られるリスクが伴いますから」
輸送便の出発時間などの関係で、同社は高知にはカツオを送っていないという。
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10月7日午前4時半。気仙沼港の岸壁に立った。漆黒の空から雨が降り注いではいたが、活気にあふれている。ひときわ目を引くのが、サンマ船の水揚げ。可動式LED集魚灯が、強烈な光で市場の一角を照らし出す。
その横に高知の近海一本釣り船が接岸して水揚げを始めた。一本釣り船はその後、静岡、三重、宮崎の船が続々と入港。「日本一の生鮮カツオ基地」の喧噪(けんそう)は、いつ見ても高揚感を覚える。
日本近海では最大級の漁場が形成される三陸沖。回遊するカツオは各船の魚槽、次にこの市場岸壁を経由して、三大都市圏の食卓へと向かう。