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2019.12.23 08:05

【読もっか いのぐ】考えよう!未来の避難所 プロジェクト2019(中)

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【注目!イタリア方式】高知大准教授 大槻さんが紹介
防災いのぐ記者たちによる「考えよう未来の避難所プロジェクト」の2回目。前回学んだ、質の高い避難所の要件「水洗トイレ(T)、キッチン(K)、ベッド(B)」の整備が進んでいる国があります。イタリアです。しかも被災後、素早く整えるのも当たり前。そんな避難キャンプの様子が下の写真です。まずはこのキャンプについて学習しましょう。

【T トイレ】
 キャンプ内にはトイレや洗面台、シャワーのあるコンテナが並びます。水洗トイレは当たり前。

2016年8月、イタリア内陸部で発生したマグニチュード6・2の地震後、震源地近くに設営された避難キャンプ(写真はいずれも避難所・避難生活学会、榛沢和彦理事長提供)



【K キッチン(食事)】
 食事はプロがキッチンで調理。寝起きなどをする所とは別の、食堂テントで提供されるのがポイント。


【B ベッド】
キャンプ内に並ぶ居住テント。6人分のベッドを備え、家族単位で提供されることが多いそうです。各テントには発電機もあります。


ポイント1【24時間で完備も】

「日本とイタリア、考えの違いが避難所にも表れています」と話す大槻知史准教授(高知市の高知新聞社)


 2回目の講師は、高知大学・防災推進センターの大槻知史准教授(43)。「日本は『災害だから我慢しなければ』。イタリアは『災害時こそ、尊厳ある暮らしを送る権利がある』。考えの違いが元にあります」

 体育館で雑魚寝の日本とイタリアは大違い。あぜんとするいのぐ記者たち。

 今夏、イタリアを視察した大槻准教授には、さらに驚いたことが。それはTKBを完備したキャンプの設営は「24時間を目指す」という現地での説明。

 これを可能にするものが、三つあったそうです。一つは国の役所「災害防護庁」。ここでは軍や警察、通信、道路、医療、ボランティアの団体などが、普段から災害時の連携や、活動の準備をしています。災害が起きると、被災者救出、物資支援など目的別にすぐに集まり、活動開始。しかも国、州、県を超えて情報を伝え合うので、素早く「何をするか」が決まるそうです。

 さらに、“給料”の出る「職能支援者」。料理人や看護師、土木関係など80万人が登録。キャンプ開設にすぐ対応します。

 そして「備蓄」。TKBに必要な資材250人分をコンテナに1セットにして、国内各地に分散して置いてあり、災害の規模に応じて一気に送るそうです。

 大槻准教授は言います。「イタリアの地震と比べ、南海トラフ地震ははるかに大規模。だとしても、日本も『尊厳ある避難生活』を目標にすべき。せっかく生き延びた命を、避難所で落とさせないために」

ポイント2【日本はまだまだ】

左=避難所の1人当たりのスペース「2平方㍍」を体感するいのぐ記者たち(高知新聞社) 右=多くの自治体で備蓄品とされる「簡易トイレ」。工事現場などにある「仮設トイレ」とは別の物


 まだまだ課題が多い日本。南海トラフ地震が起きた時、高知は?
 物流が止まれば、発生から3日間は県内にある物資を分け合うことになります。物資は大きく三つ。市町村や県の「公的備蓄」、店などの「流通備蓄」、そして「個人備蓄」。

 高知市の公的備蓄、「1人の1日分」でTKBを見てみましょう。T。災害時も使えるトイレは二つの小中学校だけ。ほとんどが簡易トイレで、かぶせる「排便袋」は5枚。トイレットペーパーは8㍍です。Kは3食、ご飯。アルファ化米か給食センターの白米(乳児は粉ミルク)。水は3㍑です。Bは毛布が2枚。避難所のスペースは2平方㍍。

 市町村で違いもありますが、簡易ベッドは避難者の1割分だったり、避難所スペースも3平方㍍だったり。市町村を補う県の備蓄品も、内容は高知市とほぼ同じです。

 量も足りません。高知市は避難者7・7万~16万人の想定ですが、アルファ化米は9・2万人の1日分。給食センターの白米も9千~1・8万人の1日分。排便袋は3日分。県も最大避難者30万人の2割、6万人の1日分です。なので、市、県などは個人備蓄を呼び掛けています。

 仮設トイレや不足する食糧は、多くの自治体が発生後に注文する予定。4日目以降、国の物資が届き始める予定ですが、即席麺、缶詰、レトルト食品が加わる以外は高知市と同じ内容。

 「尊厳ある暮らし」は? 市町村の職員は「避難所の質向上は後になる可能性も」。国の担当者は「簡易ベッドなどは国から送る場合もある」といいますが…。全国で最大950万人の避難者が想定される南海トラフ地震。全員を支えられるのでしょうか。


【いのぐ記者の学習の感想】
●細川雅司さん(高知市・愛宕中3年)
 「災害だから仕方ない」でなく、イタリアのように国を中心に各機関が連携して、「災害時だからこそ、尊厳ある暮らしを送る権利がある」と、日本でも考えられるようになってほしい。ただ、今も雑魚寝が続く日本で、それはいつになるのか…。個人もそうだけど国、県、市町村も備蓄を増やしてほしい。

●牧孝記さん(高知市・三里中3年)
 イタリアと比べて、日本の避難所はプライバシーがあまりなく、物資が届くスピードも遅そう。最低限、改善しなければと思った。

●高松和央さん(田野町・田野中1年)
 イタリアの避難所がキッチン、食堂、寝るテントなどゾーンが分かれているのがいい。高知県の備蓄の量で、本当に市町村を補えるか心配。

●川並優仁さん(高知市・土佐塾中3年)
 (最大で950万人の避難者が出る)南海トラフ地震で、本当に国からの支援が4日目以降に来るか心配。でも、高知市の備蓄は基本的に1日分。生き延びるためには「自分で備蓄しないと…」と思った。
 イタリアはスピード感を持ってTKBを整えるのはすごい。災害後の生活環境をすごく大切にしているところも、〝あり〟だと思った。

●阿部大吉さん(高知市・土佐塾中3年)
 (スーパーやコンビニなどが)災害時、品薄になるのをテレビで見た。流通備蓄が南海トラフ地震で足りるか不安。かといって個人備蓄は大変。県、市町村は、もっと備蓄していると思っていたが…何とか増やしてほしい。

●宮本真理子さん(高知市・土佐中1年)
 最大で950万人が避難する南海トラフ地震で、備蓄が足りないのは多少、しょうがない気もする。でも市町村によって備蓄の種類や量が違うのは変。国などがちゃんと基準を作ってほしい。
 イタリアは国内で分散備蓄しているのが良い。


【最終回は来年2月25日付 目指す未来を形に】
 いのぐ記者たちは前回、今回の「考えよう未来の避難所プロジェクト」で、長年変わらなかった日本の避難所の課題を知り、質の高い生活環境を実現するイタリアの手法にもふれました。

 次回、最終回は2020年2月25日。彼らがいよいよ「未来」を形にします。(新田祐也)

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