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2024.05.10 05:00

小社会 聞く力

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 「聞く力」の著者、阿川佐和子さんは執筆当時、人に話を聞く仕事はまだ修業中と書いている。東日本大震災。自分に何ができるだろうとコピーライター、糸井重里さんに示唆を求めた。

 糸井さんは自身が被災者の若い女性に言われた言葉を伝える。〈避難所に行って話を聞いてあげてください。来てくれたというだけで、孤独じゃないってわかるから。自分が忘れられていないと気づくから〉。阿川さんは「『聞く』だけで、人様の役に立つんだ」と知ったと書く。

 水俣病の患者らと懇談した環境省の大臣、役人の振る舞いにがく然とする。被害者側が発言中、3分の時間を過ぎたからと話を遮り、マイクが切られた。被害者の驚いたような表情の映像に胸が痛む。そこには苦しむ人々に寄り添う姿勢がみじんもない。

 数年前に熊本で取材した際、識者らに「水俣病は終わっていない」と何度も言われた。行政が認定した患者は約3千人。救済策の対象になった被害者が数万人いて、さらにその枠外でも今なお多くの人が救済を求めている。

 ましてや水俣病は天災ではない。高度成長の時代。環境よりも産業を重視して対応が遅れた国などの「不作為」というキーワードがある。その国が勝手に時間を設定し、長い苦しみを3分で話せという手法も違和感が募る。 

 岸田首相が就任当初、アピールしていたのも「聞く力」だった。まともに受け取る人はもう多くあるまい。

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