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2024.05.10 05:00

【水俣病発言制止】環境省は「原点」に戻れ

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 水俣病の患者・被害者らと伊藤信太郎環境相の懇談中、環境省が被害者側の発言を制止した問題は、同省の不誠実さのみならず、組織の原点である公害問題への姿勢が軽んじられていることをさらけ出した。
 伊藤氏と同省幹部は被害者側に謝罪したが、今回の行為が招いた不信感は大きく、今後いくら寄り添うような発言をしたところで、うわべだけだとの疑いも生じる。環境行政の基本を厳しく問い直し、信頼回復に努める必要がある。
 懇談は、熊本県水俣市で1日あった犠牲者慰霊式の後に開かれた。被害者団体代表の発言が、設定時間の3分間を過ぎた際、環境省側がマイクの音を切った。
 そもそも懇談は、環境相が当事者の声を聞く目的で設定されている。伊藤氏も当日、「話を聞く重要な機会だ」と述べていた。
 にもかかわらず、団体代表が昨年亡くなった妻の様子を切々と話している途中に発言を遮った。思いを踏みにじる行為であり、非常識さが際立つ。3分間とした発言時間も、積年の体験や思いを述べるに当たって十分な長さとは言えないだろう。
 発言制止について環境省は、伊藤氏の帰りの新幹線などの出発時間を理由に挙げ、マイクの音を下げる運用方法も省内で代々引き継がれていたとする。極めて役所的な行動、発想と言わざるを得ず、懇談が形骸化していた面もうかがえる。
 現場での対応も不信を深める要因になった。マイクを切った環境省側は「不手際だった」と曖昧な釈明を繰り返し、伊藤氏も「マイクを切ったことを認識していない」と答えた。だが「水俣病が環境行政の原点」と強調してきた伊藤氏には、不適切な事態に即応する責任が求められたのではないか。
 伊藤氏らは熊本に赴いて謝罪したが、患者・被害者側は冷ややかだ。素直に受け入れられないのは当然だろう。水俣病からの救済を求める人がなお多数いる中、加害者としての誠意や謙虚さに欠ける国の姿勢が、今回の対応から改めて浮かび上がったからだ。
 水俣病を巡っては、政治解決による救済策として水俣病特別措置法が2009年に施行されたが、救済対象にならなかった人たちが国を訴える訴訟が続いている。4月までに言い渡された大阪、熊本、新潟各地裁の判決では、原告を患者と認める判決が相次いだ。
 だが、被害の範囲を絞り込んできた国の姿勢に変化はなく、今回の問題が被害者、患者らの不信感に拍車をかける。
 環境省の前身の環境庁は、水俣病など1960~70年代に深刻化した公害被害の反省から、71年に発足した。被害者に近い立場の官庁としての役割が期待されてきたが、十分応えられてきただろうか。
 水俣病被害者らとの懇談については開催方法の改善を図るようだが、小手先の対応では意味がない。環境省は原点に戻り、組織文化、体質を見直すことが求められる。

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