2024.05.02 05:00
小社会 失敗しない時代
先日参加した講演で、報道における生成AIの活用策が語られた。事例を紹介した講師は「取材の録音データを入力すれば60~70点の記事がすぐできる。手を入れて100点に近づければいい。新人記者でも失敗しない」。他県では飲食店を紹介する取材で実証実験が行われ、記者2人が3カ月で約250本もの記事を仕上げたそうだ。
AIの波はここまで来たのか―。そう驚くとともに、アナログ世代の記者としてかすかな抵抗感も覚えた。
例えば、災害などで傷ついた人に寄り添い話を聞く。政治家の回答の矛盾を突く。グルメリポートならともかく、心の機微に触れる取材にAIを使うのは気が進まない。
もっと引っかかったのは「失敗しない」ことだ。小さな失敗を重ねて成長するのは記者だけでなく、人の営みそのもの。行き過ぎた先回りは感動を奪う。予測の外側に大切な発見があることも多い。
幼少期からデジタルの時代に生きる「Z世代」は、大量の情報の中で失敗したくないとの心理が働き、リスク回避の志向が強いという。AIの普及によって多くの人が失敗を避けるようになれば、今より感動の薄い世の中になるのかもしれない。