2024.04.16 05:00
小社会 坂の上には
単純明快な鍛錬と強い意志で、レスリング世界一の力を身につけたアスリートがいる。パリ五輪日本代表の桜井つぐみ選手。県勢オリンピアンが金メダルを獲得すれば、1932年ロサンゼルス大会の競泳1500メートル自由形を制した北村久寿雄さん以来となる。
桜井選手の言葉には決意がにじむ。「やらないとできないし、やらないと勝てない」。多種多様なレスリングの技を繰り出し、試合で適切な応酬をする。そのためには、体が覚えるまでは練習をやめない。
すごく単純なこと。頭では分かっていても、それを継続し、強さへと昇華させていくことがいかに難しいか。継続は力なり―が格言として今も耳に届くゆえんだろう。
幼いころは試合に勝てず「硬筆の方が楽しかった」と振り返った世界女王。勝つ喜びを知ってからは、レスリングの辞書から妥協という二文字を消し去った。先のアジア選手権でなめた苦杯をも力に変えるに違いない。
つらい上り坂の先に世界の頂点がある。振り返ると、さっきまで必死で上ってきた坂が、初めてレスリングシューズを履いたあの頃へと延びている。人生にも通ずる景色。一歩一歩積み重ねてきた努力という下り坂が眼下に輝いている。