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2024.03.26 08:00

【モスクワのテロ】阻止失敗は転嫁できない

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 テロ行為は正当化できない。市民の平穏な日常を奪ったことを強く非難する。一方、不正確な情報は混乱の拡大を招いてしまう。厳正な捜査が求められ、報復的な行動は慎まなければならない。
 モスクワ郊外のコンサートホールでの銃乱射テロは死者が130人を超え大勢が負傷した。人気ロックバンドの公演直前に武装グループが押し入り、観客に至近距離から自動小銃を乱射し、爆発と火災も起きた。
 当局は容疑者4人をロシアが侵攻するウクライナとの国境にあるロシア西部の州で拘束した。モスクワに移送してテロの罪で起訴した。4人はいずれも中央アジアのタジキスタン国籍とされる。
 過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。米国の安全保障当局者らは、アフガニスタンに拠点を置くIS系勢力「ISホラサン州」による犯行との見方を示している。ISはプーチン政権が強権的な取り締まりをすることに反発を強めている。2022年にはアフガンのロシア大使館前で自爆テロを起こしている。 
 米国は今月、モスクワでのテロ計画の情報を入手し、ロシア側に伝達していたようだ。対立する米ロに、テロ情報の交換ルートが維持されていることは歓迎される。しかし、テロを未然に防ぐことはできなかった事実は重い。
 治安当局の失態に非難が向けられる。情報の取り扱いや対応の不備は明確だ。テロが繰り返されないか、市民に不安が高まっている。
 プーチン大統領は「野蛮なテロ」と非難した。さらに、実行犯らがウクライナに越境する「窓口」が用意されていたと、ウクライナと関係があるような主張をしている。ゼレンスキー大統領は、ロシアが責任を転嫁しようとしていると非難した。
 ウクライナ侵攻は3年目に入った。ロシアは守勢から転じ、支配地域を拡大する構えを見せる。だが、ロシア側の犠牲や被害も増えている。大統領選を圧勝したプーチン氏だが、高い支持の一方で強権支配への不満もくすぶる。
 こうした状況下でのテロ発生は、政権の弱体化につながると見ていても不思議ではない。発言は批判の矛先をかわす狙いがうかがえる。国家の危機を強調して国民の結束を図るのは常とう手段だ。
 しかし、発言は慎重であるべきだ。敵をつくり出すような対応で抑え込みを図ろうとしても事態の好転は期待できない。必要なのは悲劇を乗り越える取り組みであり、背景に踏み込んだ捜査を尽くすことだ。
 プーチン氏は「国際テロという共通の敵と戦う全ての国々と協力する用意がある」と言及している。テロの防止には積極的な対応が求められる。だが、武力行使や弾圧で意見の相違を抑え込む姿勢のままでは協力体制は整えにくい。
 国際秩序が揺らぐ中、対話を重ねる重要性が高まっている。環境整備へ多方面からの働きかけを強める必要がある。

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