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2024.03.23 08:00

【水俣病訴訟】国は真の最終解決を急げ

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 司法判断がこれほど極端に分かれること自体、水俣病の根本解決は遠いと言わざるを得ない。いまだ救済されていない患者を一層苦しめる。国の責任は重い。
 2009年施行の水俣病特別措置法に基づく救済策の対象外となった144人が水俣病の症状を訴え、国と熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁が請求を棄却した。
 原告の約8割の水俣病罹患(りかん)を認めなかった。民間医師による診断書の所見だけでは信用性に乏しいとし、より厳格な診断を求めた。
 罹患を認めた原告についても、損害賠償請求権が消滅する20年の除斥期間が過ぎたと判断した。「時間切れ」を言い渡した。
 同種の訴訟で昨年、原告全員を水俣病と認め、国などに賠償を命じた大阪地裁判決とはあまりに対照的だ。水俣病の認定や救済を巡っては、これまで司法が前を切り開いてきた面があるだけに、関係者の衝撃は大きいだろう。
 水俣病患者は長く、公害健康被害補償法が適用されてきたが、国が設けた認定基準が厳しく、審査から漏れる例が多発。未認定患者らの訴訟が相次いできた。
 04年の最高裁判決が国の基準より広く水俣病を認め、司法判断に押されるかたちで特措法が成立した経緯がある。その結果、対象者は大幅に増えたが、真の解決には至らず、訴訟が続いている。
 特措法が、メチル水銀の排出停止翌年の1969年11月末までに生まれ、不知火海(しらぬいかい)に面する熊本、鹿児島両県の9市町沿岸部などに居住歴がある人に対象を限定したためだ。申請も約2年で締め切られた。
 今回、原告側は、対象地域外に居住していたが、行商で運ばれるなどして不知火海の魚介類を多く食べ、水俣病の症状を発症したと主張。居住歴や出生年の線引きで対象外とされるのは不当だと訴えてきた。特措法を知らず、申請期限に間に合わなかった人も原告に加わった。
 これに対し国などは、発症するほどのメチル水銀暴露はなく、症状の原因が水俣病とは限らないと反論。除斥期間も経過していると主張してきた。
 原告は控訴する方針で、今後、高裁での審理や判断が注目されるが、改めて問われるのは、救済のあり方がこのままでよいのかという根本問題である。
 特措法は問題の「最終解決」をうたって成立した。「あたうかぎりの救済」も掲げている。ところが対象者は限られ、国の判断基準も厳しいままで、最終解決には程遠い。
 同種の訴訟は東京や新潟でも提起され、各地の原告は計1700人を超える。今回の熊本訴訟も原告1400人のうちの第1、2陣である。いかに認定と救済を求める人が多いかが分かる。
 国は真の解決を急ぐ必要がある。1956年の水俣病公式確認から68年。患者の高齢化が進む。矮小(わいしょう)化や時間稼ぎは許されない。

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